たと思った。このガン人のために三根夫がつきだされるとハイロ自身も、そうとう重い刑罰をうけなくてはならないであろう。そう思ったハイロは、とにかくここで相手をうちたおし、その気絶しているまに三根夫の手をとって逃げるならば、あるいはじぶんの身柄《みがら》をかくすことに成功するかもしれないと考え、全身の力をこめて、大男のあごをつきあげた。
不意をくらった相手は「うッ」とうなると、うしろへよろめいて、仰向《ああむ》けにどたんとたおれた。すると意外なことが起こった。かれの頭部がはずれて、ころころと向うへころげたのであった。
ということは、かれもまたお面をかぶっていたというわけだった。
「この野郎」くるっと一転すると、かれはすっくと立ちあがった。お面のかわりに、地球人のまっ赤な顔が、怒りと不安にゆがんでいた。その顔に見おぼえがある三根夫だった。
「やあ。ガスコだ。スコール艇長と名乗っていたガスコだ」
読者はおぼえていられるであろう。この物語のはじめに出没《しゅつぼつ》した覆面《ふくめん》の怪人《かいじん》ガスコであった。またギンネコ号の艇長スコールだと名乗って、テッド博士|座乗《ざじょう》のロケット第一号のなかへ変装してやってきた怪漢だった。そのとき三根夫は熱線をかれの変装のうえにかけ、つけひげなどをとかしてうち落とし、化けの皮をひんむいてやったことがある。その怪人ガスコが、こんな所にいたのである。
「ふふん。おれを知っていやがったか。ようし、そうなれば、なおさらきさまたちを許しておけないぞ。ここで、ふたりとも、息の根をとめてやるんだ。こら、動くな。手をあげろ」
ガスコの両手には、いつのまにか、二|挺《ちょう》のピストルが握られ、その銃口は三根夫とハイロの胸もとに向いていた。もう、いけない。三根夫は両手をあげた。そのとき撮影録音機のはいっている包みがごとんと音をたてて下に落ちた。ハイロも、三根夫とおなじように手をあげた。
信号灯
ガスコは、すっかりいばってしまい、
「ははは。ざまを見ろだ。ここできさまたちふたりを片づけてしまえば、おれの立場は、ますます安全となる。おれは運がいいよ」と、みょうなことをいった。
三根夫は、ちらりとハイロのほうを横目で見た。するとハイロは、首も手足もなく、服だけが両手をあげていて、ハイロの表情を知ることができなかった。これには困った。
ガスコは、ハイロのほうへ寄ってきた。そして一挺のピストルをポケットにしまい、そのあいた方でハイロの頭を手さぐりして、かれの大きな耳をつかんだ。
「やい。きさまも、はやくお面をぬぐんだ」
「あ痛た、たッたッたッたッ」ガスコは、ハイロが正真正銘のガン人であることにもっと先に気がついていなくてはならなかった。ハイロの頭や手足が見えなくなったときに、ハイロこそガン人のひとりだとさとるべきだった。ところがガスコは、はじめからハイロを、三根夫とおなじ地球人であると思いこんでいたために、この重大なまちがいをしでかしたのだ。
ハイロは、いやというほどガスコに耳をねじられたので、すっかり怒ってしまった。
「らんぼうなことをする奴だ。おまえさんは何者だ。見れば地球人じゃないか。地球人のくせにガン人であるわしを殺すというのかい」
と、ハイロにせまられて、ガスコは返事につまった。ガン人を殺すことは許されないのだ。まんいちそんなことをしたら、あとで極刑《きょっけい》になるのはわかり切っていた。
「いや。きさまはガン人なものか。地球人にちがいない。はやくそのお面をぬぐんだ。ぬがないと、このピストルがものをいうぞ」ガスコは、苦しまぎれに、ハイロを地球人といいはって、この場の不利をごま化そうとした。ハイロは、ますます怒った。
「ばかなことをいうな。おまえさんじゃあるまいし、顔の皮をむいて、下からもう一つ顔をだすなんて、そんな器用なことができるものか。わしはガン人だ。見そこなってもらうまい」
「いや、ガン人なものか、地球人だ。引っ立てて、警備軍へ渡してくれるぞ」
さすがのガスコも、相手がガン人とわかっては、ピストルの引金《ひきがね》を引くわけにいかなくなり、こんどは警備軍へひき渡すといいだした。
このとき三根夫がハイロのところへ寄った。そしでハイロの耳に、なにかをささやいた。ハイロは大きくうなずくと、目を皿のようにして、ガスコのほうへ一歩前進した。
「わしはガン人として、おまえさんに聞きただすことがある。おまえさんは、何の理由があって立入り禁止の天蓋をうろうろしているのかね」
「うむ。それは……」
と、ガスコは痛いところをつかれて、醜い顔をいっそうゆがめて、ことばにつまった。
「まだおまえさんに聞くことがある。おまえさんが、あそこへおいてきた長い筒は、あれはいったい何に使うもの
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