がねえ」
「テンガイだって。それは、どこのこと」
「つまり、天蓋ですよ。空よりもずっと上にあって、この国を包んでいるものですよ。その内側には空気がありますが、外側には空気がないんですよ。つまり天蓋が、境《さかい》になっているんです」
「見たいね。そういう話をきくと、よけいに見たくなる。さあハイロ君。天蓋見物にすぐでかけようよ、ね」三根夫の熱心にまけて、ハイロはついにしょうちをした。ふたりはもとのにぎやかな町へでた。その町をどんどん通り越して、町はずれといったところへでると、一つの妙な建物があった。それはかさが開いた松茸《まつたけ》みたいな建物だった。もっとも屋上はたいらであった。
 その屋上へでると、そこにはかわいいヘリコプターがあった。腰かけに、小型のヘリコプターを仕掛けたようなものであった。これに腰をかけ、肘《ひじ》かけのところにあるいくつかの操縦釦《そうじゅうボタン》をおせば、空中を自由自在にかけまわれるのだった。
 ハイロは、ヘリコプターを二台借りた。もちろんその一台には三根夫をすわらせ、バンドでしばりつけた。ハイロはじぶんの身体にも、もう一台のほうをしばりつけ、かんたんな操縦法を教えた。
「こうすれば、立っていることもできるんですよ」
 腰をかける座席のところをはずすと、そのまま立っていられた。着陸のときは、こうして立ったままおりるとぐあいがいいそうだ。
「さあ、のぼりましょう。ちょっと高いですから、目をまわさないように、わたしについていらっしゃい」そういってハイロがとび立った。そこで三根夫もつづいて操縦釦をおした。
「あ、これは愉快だ」身体がきゅうに軽くなった。すーッと空中へとびあがっている。頭の上と座席のうしろとにプロペラがまわっているが、あまり大きな音がしない。ぐんぐんのぼっていった。三根夫の感じで五千メートルぐらいのぼったとき、ハイロが横へきて、上を指した。
「ほら天蓋が見えるでしょう。格子《こうし》の目のようになっていて、その上に何かのっているのが見えませんか」
「ああ、見える。なるほど、あれが天蓋か」
 とうとう問題の天蓋のそばまできた。天蓋の構造がよくわかっていないと、とても脱出計画は成功しないのだ。三根夫は緊張の極《きょく》、身体がぶるぶるふるえだした。


   巨大なる天蓋《てんがい》


 三根夫の胸は、はげしくおどった。見える! 頭上、手のとどきそうなところに、謎の構造をもった天蓋の、その裏側が見えるのだ。
 はるかに下の町から仰いだところでは、天蓋は、灰色または青色の布を張ったように見えていたが、こうして近くにきて観察すると、そんなやすっぽいものではなかった。それはすこぶる大きな軽金属製、あるいは樹脂《じゅし》製と見えるだだっ広い天井が、はてしも知れずひろがり続いているのだった。それはたいへんしっかりしたものに見えた。
 その天井の下には、やはりおなじ色の吊《つ》り橋《ばし》が、網《あみ》の目《め》のように、縦横《じゅうおう》にとりつけられ、どこまでものびていった。吊り橋は、天井から十メートルほど下にあり、パイプを組立てたような構造ではあったが、なかなかの偉観であった。しかもこの吊り橋を、天井の偉大さにくらべると、まるで講堂の天井に、小さい蜘蛛《くも》の巣《す》がかかっているほどにしか見えなかった。
「三根夫さん。もうちょっと向うへいったところで、あの吊り橋へ下りましょう。ゆっくり飛んで、ついていらっしゃい」
 案内者のハイロが、ひとり乗りの豆ヘリコプターを三根夫のそばへ近づけて、そういった。
「ハイロ君。あの天蓋を外へぬけられないのかね。ぼくは、天蓋の外へでてみたいんだがね」
 それは三根夫がじぶんの使命をはたすために、ぜひそうしなくてはならないことだった。
「それは、吊り橋へ着いてからあとのことにしてください。誰にも知られないで、あの吊り橋へあがることは、ひと苦労なんですからね。とにかく、わしのするとおりに、ばんじをやってください」
「さあ、速度をおとして……」そういってハイロは、きりきりと上へのぼっていった。
 いよいよ天井は近くなった。吊り橋にヘリコプターのプロペラがぶつかりそうだ。ハイロは、巧妙に飛んでいる。三根夫は、そのとき、一つの発見をした。
「ははあ、あれが桟橋《さんばし》だな」
 それは二、三十メートル前方に見えてきた環状《かんじょう》になっている吊り橋だった。そこには、四方からのびてきた吊り橋が、丸い環状の吊り橋をささえているのだった。どうもその環状になった穴のところへ、下からヘリコプターがのぼってはいるのではないかと思った。
 まさに、そのとおりだった。ハイロはうしろへふりかえって、三根夫に合図をすると、ずうッとその環のなかへはいってのぼっていった。三根夫が見ていると、
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