すからね」
「そこは、何をするところなの、この国の」
「動力室です。つまりこの国を動かしているあらゆる力を発生するところです。操縦室もあります」
 なるほど、これは重要な場所だ。ふたりは、一階下へおりたが、まちがってこの階へおりたようなそぶりを見せ、五分ばかりでそこを引きあげ、上の階へもどった。
 しかし三根夫は、その短かい時間に、はっきり見た。すごいエンジンがずらりとならんで、ごうごうと動いていたことを、また一段高いところに、透明なガラス張りのような台があって、そこにはものものしい作業衣に身をかためたガン人が二十人ほど、複雑な機械の山のようななかにそれぞれの部署について、しきりに手をふり、身体を起こして機械を調整していた。そこが怪星ガンの操縦室にちがいなかった。なにしろすごい動力室であった。科学と技術の粋をあつめた大殿堂とでも、いいたいほどの大壮観であった。
「さっき見た大きなエンジンは、何を原動力にしているの」三根夫はハイロにたずねた。
「いまのところ、旧式だけれど原子力エンジンを使っていますがね。そのうちに、もっと能率のよいものに改造する計画があるんですって」
「へえ、原子力エンジンは旧式だというの」
「あれは消極的であるから、能率がよくないし、大きな装置がいる割合いに、動力があまりでてこないといっていますよ」
「そうかなあ。原子力エンジンといえば、すばらしい動力をだすものだがなあ」
「この国の技術は、循環性《じゅんかんせい》の強力なエンジンを設計するといっているんです。つまり、だしたものを、またもとへ入れて、まただすという仕掛けですよ。そうなれば、いままでのように原料を使いすてるというやり方は、損だといっています」
 ハイロは、エンジンのことについても、そうとうの知識を持っているようだ。
「ハイロ君。この国は宇宙のなかを運行していくがその力はやっぱりあの動力室からでているの」
「そうですとも。この国は、恒星《こうせい》や遊星《ゆうせい》などとちがって、われわれの手でつくったものですからねえ。宇宙を旅するには、もちろん動力がいるわけです。ですからあの動力室は、この国にとってはひじょうに大切なんです」
 動力室が非常に大切なものであることは、よくわかった。怪星ガンの大きさから考えて、こんな大きな物体が、宇宙のなかを快速力でとんでいくには、毎秒たいへんな動力をださなくてはならないであろう。地球人類の頭脳と科学力とでは、とてもやれないことだ。三根夫は、怪星ガン人の智能の深さと大いさに、いまさらながらおどろかされた。
(このようなガン人に打ちかって、われわれテッド隊員が、うまく怪星ガンから脱出することがはたしてできるであろうか)それを考えると、三根夫は気がめいってきた。


   問題の天蓋《てんがい》


 三根夫が、へんな顔をして、ふさぎこんでしまったので、ハイロは心配して、声をかけた。
「誰でも、動力室を見ると、気がふさぐものです。それは、もし動力室がこわれたら、われわれはどうなるかなあという不安が、誰の心にも起こるからです。まあ心配しないほうがいいですよ。この国にも、そのほうの専門家がたくさんいるんだから、動力室のことはその人たちにまかせておくことですよ。そしてわれわれは、もっと楽しいことばかり考えるのがいいんです」
 そういうところを見ると、ハイロもやっぱり動力室見学は、愉快なことではないらしい。
「ハイロ君のいうとおりだ。はやくここをでて、もっと愉快なところを見物させてくれたまえ」
「さあ、愉快なところというと、どこにしましょうか。映画見物か、それとも音楽会へいってみますか」
「いやいや、そんなところは、いつでも入場できる。きょうは、めったに見られないところを見物したいのだよ」
「それでは、どこがいいでしょうね」
「そうだ。ずんずん上へあがって、この国の一番外側へでて見たいね。さあ、そこへつれていってくれたまえ」
「うーん。それは……それはちょっと厄介《やっかい》だなあ」ハイロは、困ったという顔をした。しかし三根夫としては、怪星ガンの一番外側へでて、そこがどんなになっているかを見てくることが、予定のなかにはいっていた。なんとしても、それを知る必要がある。
「だって、ぼくはぜひ見物したいのだもの。ねえ、ハイロ君。ぜひつれていってよ。はじめのやくそくで、どこにでも案内してくれるはずだったね」
「でも、あそこへいけば、かならずつかまって、取調べをうけるにきまっているんですからねえ、そうすると、化《ば》けの皮《かわ》がはがれますから、えらいことになりますよ」
「ここに南京ねずみが十ぴき、そっくりそのままになっているから、これを使用すればいいさ。さあ、つれていってよ」
「天蓋見物《てんがいけんぶつ》は、よしたほうが安全なんです
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