て、それに乗っていると、やや爪先《つまさき》さがりにぐるぐるとまわっているといつの間にか地階へつくのであった。エレベーターよりもいっそう進歩した仕掛けだと思われた。
「ほほう。これは温室村へきたようだ。うわあ、すばらしくひろい温室だ」
「しいッ。声が高い」三根夫は、ハイロから注意をうけた。
 まったくすばらしい温室式の農場であった。いや、工場のような農場だといったほうがいいだろう。何段にも野菜の植わった棚《たな》があって、それがずらりと遠くまでならび美しい縞《しま》を見るようであった。太陽はない。上から特殊な光線がこの野菜棚を照らして、太陽の光りにあたるよりもずっとよく育つのだそうだ。また肥料もそれぞれの野菜に合ったものがじゅうぶんにあたえられ、植物ホルモンがうまく利用せられ、そのうえに、生長をたすける電波がかけられているので、野菜のできはいいし、その生長もたいへんはやい。
 三根夫は、べつのところで、果物《くだもの》畑を見た。これもきちんと箱にはいって、ならんでいる。木の太さの割合いには、すばらしくたくさんのみごとな実がなっていた。これも人工的の特殊の栽培法が行なわれているためである。おなじ階に、ひろびろとした牧場があった。また養魚場があった。どっちも三根夫をたいへんおどろかせた。というのは、牧場には、牛や豚の姿はなく、三根夫がはじめて見るふしぎな獣が飼われていたからだ。また、養魚場で見た魚も、地球上であまり見かけない種類のものであって、なんだか気持がへんになった。
 そういうことについていちいち記していくと、きりがないので、あとはとくに重要なものについてだけ、のべておこう。もう一階下へハイロが三根夫をつれこむとき、
「三根夫さん。これからは気をつけてくださいよ。この国の心臓にあたる重要な、そして秘密な場所ですからね。それは兵器工場なんです」と、耳うちした。兵器工場があるというのだ。
 やっぱりそうであったか。怪星ガンも、兵器を作って、持っているのか。どんな兵器を作っているのかと、三根夫は好奇心を強くした。ハイロに案内されて、そこへ下りていってみると、その工場の大仕掛けなのにおどろいて、思わず「あッ、これは……」と叫んで、あわてて口をとじた三根夫だった。どうしてこんな大工場があるのかと、あきれるばかりだ。そこに働いているガン人の数も、おどろくほど数が多い。それにくるくるごうごうとまわる大小無数の工作機械が、どんどん作りだしていくそのスピードの早いことといったら、目がまわるほどだ。
 これを見ても、ガン人は、地球人類よりもずっと感覚もするどく、能力もすぐれていることがわかる。しかし、そこに作りだされる兵器るいは、いったいどうして、どのように使うものだかさっぱりわけがわからないものが多かった。三根夫は、それについて、いちいちハイロにたずねたく思ったが、あいにくどこにもたくさんのガン人の職工がいるので、三根夫はきくことができなかった。なぜなら、三根夫は頭からガン人の首のつくりものをかぶっているので、これは三根夫が口をひらいても、つくりもののほうは口をあけないから、すぐあやしまれてしまう。
 そのかわり、三根夫は、れいの写真機と、録音機を中にひそませた四角い箱をさかんに活用して、生産されつつある兵器の写真をとり、また職工たちがしゃべっていることばを録音した。
 この広い兵器工場を見終ったときには、三根夫はすっかりくたびれてしまった。それで動く道路のそばにしゃがみこんでハイロに、しばらく休ませてくれといった。


   すごい動力室


 ハイロは笑って、
「それでは、これをたべなさい」と、青い飴玉《あめだま》のようなものを二つ、三根夫の手のひらにのせてくれた。
「これは、なあに」
「くたびれが、一ぺんにとれる薬です」
「それはありがたい。しかしこんなものを頭からすっぽりかぶっているから、たべられやしない。どうしたらいいかしらん」
「ははあン。それなら、わしの身体のかげで、そのかぶりものをぬいで、大急ぎでたべなさい」
「なるほど。それじゃあ頼みますよ」
 三根夫は、ハイロのかげでガン人のお面を脱いだ。せいせいした。青い玉二つを口の中へほうりこみ、それからついでにと思って、お弁当に持ってきたパンをむしゃむしゃ。それから水をがぶがぶ。そして目を白黒しながら大急ぎで、お面をもとのようにすっぽり頭からかぶった。
「三根夫さん。どうです。身体が軽くなったでしょう」
「ああ、ほんとだ。さっきのくたびれが、どこかへいってしまった。よくきく薬だね」
 三根夫は元気をとりもどして、ハイロについて名所見物をつづけた。
「もう一階下にあるところは、この国で一番重要な所なんです。ちょっと見るだけで、がまんしてください。何しろ監視の目が多くて、ひどく光っていま
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