しょう」
そこで三根夫は、怪星ガンの名所見物をすることができるようになったのだ。もっとも、この妙案は、三根夫が考えついたものではなく、あらかじめテッド隊長のまえで幹部があつまって、ちえをしぼったもので、主として帆村荘六の考えだしたものだった。
さて三根夫は、サミユル博士の家へハイロをたずねていった。ハイロは、その日はきげんがよくなかった。
「三根夫さん。あぶないから、見物はもっと先にのばしましょう」
「いやいや、早いほうがいいよ。ぼくは、もうちゃんとお土産なんかも用意してきたんだもの。やくそくどおり、すぐでかけようよ」三根夫は、ハイロがまだ知らない品物をおくりものとしてかれにあたえた。それはオルゴール人形だった。
箱の上に、美しい少女の人形が立っていた。箱の横にあるネジをまき、人形の背中についている釦《ボタン》に、ちょっとさわるときれいなオルゴールの曲がなりはじめ、それと同時に人形がおどりはじめるのだった。このオルゴール人形は、三根夫が地球を出発するときに、買物をした三つの品物のうちの一つであり、そして一等高価なものだった。このおくりものは、たいへんハイロの気に入った。オルゴールの音にあわせて、人形とおなじようなかっこうで踊りだしたほどだ。悪かったかれのきげんも、すっかりどこかへ吹きとんでしまったようである。
「そのほか、ぼくはこの箱の中に、十ぴきの南京《ナンキン》ねずみをいれて持ってきたんだよ。まんいち、途中でやかましくいう者があったら、これを一ぴきずつあげて、きげんをなおしてもらおうと思うんだ。ハイロ君、よろしくやってくれたまえね」
「ああ、それはいいことだ」
「もし、見物がおわるまでに、南京ねずみが残れば、みんなきみにあげますよ」
「おお、それはたいへんけっこうです。それではあなたの仕度をはじめましょう」
ハイロは、三根夫のために、ちゃんとガン人のお面と、服と靴とを用意してあったのだ。まず靴をはいた。こうしておけば、ガン人とおなじ足あとがつく。それからお面をすっぽりと頭からかぶった。それは胸のところまではいった。そのうえに、服を着た。すると三根夫は、すっかり頭でっかちのガン人に見えるようになった。
「目のところは、よく合っていますかい」
「ああ、よく合っていますよ。これはありがたい、変調眼鏡もつけておいてくれたのね」
「そうですよ。それがないと、わしたちの仲間がどこにいるのか分らなくて、きっとへま[#「へま」に傍点]をやるでしょうからね」
「これは便利だ。さあ、でかけよう」
「でかけましょう。留守番のカルカン君にあとをよく頼んできます。そうだ、この南京ねずみのはいっている箱は、わしが持っていってあげましょう」
「あ、それはいいんだ。ぼくが持っていく」
三根夫は、卓子《テーブル》の上においた箱のほうへいそいで両手をのばし、それを大事そうにかかえた。じつはこの箱には、南京ねずみが十ぴきはいっているほかに、この箱は秘密の写真機と録音機になっているのであった。その使い道は、いまさらいうまでもなく、怪星ガンの重要なる場所を写真にとったり、脱出方法の発見の手がかりになるような音響や、ガン人の話を録音してくるためだった。
なるほど、こんな大切な箱包みなら、ハイロに持ってもらうことはできないはずだ。
秘密の地階へ
ハイロは、三根夫をつれて、外へでた。
ちょっと見たところ、ふたりのガン人が歩いているとしか見えない。
うしろをふりかえったり、横を見たりいそがしく身体を動かしているほうの、すこし背の高い方がハイロだった。三根夫は、ハイロよりもすこし低い。そして、なるべく見とがめられないようにと、かたくなって歩いている。ハイロは、三根夫がいままでに見たことのないところへ、案内してくれというものだから、まず地下道へはいっていった。
これまでテッド博士をはじめ、地球人間はこの地下道へはまったくはいることを許されなかったものである。それは工場ばかりであった。なぜこんなに沢山の工場がならんでいるのか、なぜそんな必要があるのか、三根夫にはわけがわからなかった。それで、そっとハイロにたずねた。
「そんなことはわかっているじゃありませんか。われわれの生活にいるものをじゅうぶんに作るには、これだけの工場がいるんです」生活必需品の工場ばかりだった。家具をこしらえたり、器物をつくったり、紙や衣料をこしらえている。食物の加工をする工場も、たくさんあった。
三根夫は一つ質問を思いついた。
「ハイロ君。この国にはどこに畑があるのかしら。果物や野菜なんかつくるにはやっぱり畑がいるのでしょう」
「ふふふ。それは、もう一階下ですよ」
そういってハイロは、三根夫を、さらにもう一階下へ案内した。地階へおりるには、動いている道路というものがあっ
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