ハイロのヘリコプターは、うまく吊り橋にとりついたようであった。そこでかれもまねをして、そちらへ近づいていった。
環状の吊り橋は、かなり大きいものであって、こんな豆ヘリコプターなら、同時に四、五十台が、はいれそうであった。それをくぐって、のぼっていくと、吊り橋の内側が、こういうヘリコプターがちょこんと乗るのにつごうがいいように、桟橋になっていた。ハイロの指図により三根夫は、ハイロのヘリコプターのすぐとなりに着橋した。そしてハイロに手つだってもらって、ヘリコプターにしばりつけていたバンドを解き、身体の自由をとりもどし、はじめて吊り橋の上に立った。三根夫は、うっかり下を見た。
「うわッ。目がくらむ」
ふらふらとして、らんかんにしがみついた。
「あ、注意をしてくださいよ。下へ落ちると、死にますよ。そして化けの皮がやぶれて、わしは陰謀加担者として罰せられますからね。さあ、手をとってあげます。下を見ないで、上のほうばかり見ているのです。こっちへいらっしゃい」
と、ハイロは三根夫の手をひっぱった。
「待ってくれたまえ。大事な品物を、ここへおいていってはたいへんだ」
三根夫は、さっき目がまわったときに思わず下においた秘密のカメラと録音機のはいっている四角い箱包みを、いそいで手につかんで、腋《わき》の下《した》にかかえこんだ。
ハイロは、前後へ気をくばりながら三根夫の手をとって、環状橋《かんじょうばし》の上を進む。
三根夫のほうは、注意をこの吊り橋と天井の構造にすっかり気をうばわれてそのほうへきょろきょろといそがしく目を走らせている。
(あッ、あそこに階段がある。やっぱりそうだ。あの階段をのぼると、天蓋の外へでられるんだな)
構築物は、みんなおなじ色をして、おなじ明かるさに照らされているので、よほどそばまでいかないと、階段や曲がり角や広間があることがわからない。なるほど、これでは下界から見あげても、天井や吊り橋などが見わけられないはずだ。
「ハイロ君。はやくあの階段をのぼろうじゃないか」と、三根夫はずんずんと足を早めた。
「あ、お待ちなさい。これから先が危険なんですよ。あの階段の下までいったあとは、ぜったいに、声をださないこと、それから足音をできるだけたてないこと、だまって上まであがり、それから一分間外を見てそれからまただまっておりてくるのですよ。いいですか」
「わかったよ、ハイロ君」
天蓋《てんがい》の頂上《ちょうじょう》
ハイロと三根夫は、あたりを警戒しながら階段に近づいた。さいわいに、誰もいないようすである。
「いよいよ、ここから階段をのぼりますが、ぜったいに声をだしてはだめですよ、いいですか」
ハイロは、もう一度ねんをおした。そしてまんいち監視隊員に見つかったときは、三根夫は口がきけず耳が聞こえないということにし、ハイロが監視隊員に口をきくから、そのつもりでと、三根夫にいいふくめた。それから階段をのぼりはじめたのである。
その階段は、螺旋形《らせんけい》にねじれて上へあがっていくようになっていた。階段のはばはかなり広かった。それをのぼりながら三根夫は壁がどんな材料でつくってあるのか注意して見た。その材料は、吊り橋や天井と同じ材料でできていると思われた。灰色だった。ちょっと指さきでさわってみた。つめたいかと思いのほか、なまあったかかった。そして弾力が感じられた。
(やはり、樹脂《じゅし》製らしい。しかしこんなに丈夫な樹脂にお目にかかるのははじめてだ)
地球にある樹脂とはだいぶちがって、高級品だった。階段の高さは、三十メートルより低くはないと思われた。この三十メートルは同時にこの天蓋の厚さでもあった。すばらしく厚い天蓋だ。
その天蓋が、するすると伸びていって大空をおおったのを見たのだ。こんな厚いものが、どうしてあのような速さで伸びていったのであろうか。そのふしぎな謎は天蓋の構造にかかっているのだ。
(いったい、天蓋は、どんな構造になっているんだね)と、三根夫はハイロにたずねたくなった。が、それはできなかった。ハイロのむずかしい目つきにぶつかったからである。
(三根夫さん。一口も、口をきいてはいけませんぞ。さっき注意しておいたでしょう)
と、ハイロは無言で三根夫をしかりつけているのだ。だからといって、三根夫はそのことをあきらめることはできなかった。そこで、思い切って、手まねでもって、ハイロにたずねた。通ずるか通じないかわからないが、壁をたたくまねをし、そしてその構造はどうか、中はどうなっているかを教えてくれと、一生けんめいに手まねを工夫して、ハイロにたずねた。
ハイロは、はじめは、あきれはてたという顔つきで、目を白黒させていたが、やがて、ハイロは手まねをもって答えだした。手まねというやり方を、ハイロは
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