ョン受影機に警報器。壁につってある富士山の写真のはいっている額。その他、みんなおなじことであった。
いや。ただ一つ、見なれないものがあった。それは天井の隅の、換気用の四角い穴に、赤くゆでた平家蟹《へいけがに》をうんと大きくして、人間の顔の四倍ぐらいに拡大したようなもの――それは見たことのない動物の顔をお面につくったものであった――が、それが換気穴《かんきあな》のところへはめこんであったのだ。その顔のお面は、彫刻であるのか、ほりものであるのかよくわからなかったが、おどけた顔つきに見えた。その色は、いまもいったとおり平家蟹をゆでたような一種独特の赤い色をしているのだった。頭がでかくて、顔がでかくて顔の下半分はすこしすぼまっている。だから、せんす形だ。大きな二つの目がある、それは人間の眼とちがって、たいへんはなれている。耳に近いところにあるのだ。望遠レンズのような感じのする奥深い、そして光沢《こうたく》をもった目玉だった。その下に、象の鼻を小さくしたようなものが垂《た》れさがっている。それが、このお面をおどけたものにしていた。口はその下にかくれているのか、よくは見えない。目の横に、顔からとびだしたしゃもじ[#「しゃもじ」に傍点]形の丸い耳がついていた。この耳も、愛嬌《あいきょう》があった。
しかし奇妙なのは、この動物が頭のうえに持っている角《つの》であった。その角は二本であった。そして短かい棒のさきに、棒の断面よりもすこし大きい団子をつけたような、ふしぎな形をした角であった。そして色は緑色をしていた。顔全体は、あまり小さいでこぼこはなく、ゆったりとふくらんだり引っ込んだりしていて、感じはわるくないほうであったが、三根夫をへんな気持にさせたのは、いったいそのお面はなんという動物なのかわからないことであった。
動物というよりも、お化けといったほうがいいようにも思われる。いや、お化けというよりもそういうへんな顔をした怪神《かいじん》とも見える。したがって、どこか人間の顔に近いところもある。牛や熊に近いところもあるが、よく見ていると、それよりも、むしろ人間くさい顔に見える。
それはまあいいとして、なんだってあんな奇妙なお面をあそこへはめこんだのであろうか。誰がやったいたずらであろうか。
「ああ、そうか。帆村のおじさんのいたずらだよ。ぼくをおどろかして、笑いころげようという考えなんだろう」そう思うと、おかしさがこみあげてきて、三根夫は声をたてて笑った。
その笑い声を、途中で三根夫は、はっととめなくてはならなかった。
「おやッ」
例のお面の大きな目がぐるんと動いたような気がしたからだ。
(お面の目が動いた。あのお面は、すると、生きているのかな。そんなことはあるまい)
三根夫は、ぞーッとさむ気を感じた。
「よく、見てみよう」かれは折《お》り尺《じゃく》を机の上からとって、それをのばしながら、机の上にあがった。かれの考えでは、机の上にあがり、それから一メートルの長さにのばした折り尺でもって、その奇妙なお面をつついてみるつもりだった。
三根夫は、机のうえに立った。そして折り尺の一|端《たん》をにぎって、他の端《はし》を高くお面のほうへ近づけた。すると、お面の両耳が、ぷるぷるッと蝉《せみ》の羽根のようにふるえた。
「あッ」
つづいて、二本の緑色の角が、にゅーッと前方へまがって、倍くらいに伸びた。象の鼻みたいな凸起《とっき》が、ぴーンと立ってその先がひくひくと動いた。そればかりか、お面全体が奥へひっこんだ。
「待てッ」
三根夫は、このとき、やっとそのお面が、作りもののお面ではなく、生きている動物の顔であることに気がついたので、腹をたてて、長く伸ばした折り尺をとりなおして、ぷすりとお面ではない、その怪物の顔をついた。たしかに手ごたえがあった。
が、とたんにその顔は、換気穴から消えてしまった。そしてばしゃんと音がして、金網《かなあみ》が穴をふさいだ。
「逃げてしまった」三根夫は、ざんねんでたまらず、歯をぎりぎりかんだ。
そのとき、入口の戸をノックして、扉をひらいてはいってきた者がある。
見えない怪物
「おや、三根クン。そんなところで何をしているんだい。おやおや、へんなものをかぶって、それはどうしたんだ」
それは帆村荘六だった。この部屋は、三根夫と帆村とふたりの部屋であったから、帆村がはいってきてもふしぎでない。
「今、へんな怪物が、あそこの穴から、こっちをのぞいていたんですよ」
と、三根夫は帆村のほうへふり向いてそういった。が三根夫はそのとき大驚愕《だいきょうがく》の顔になって、
「あッ。誰のゆるしをえて、この部屋へはいってくるんだ」
と叫びながら、椅子からとびおり、帆村のほうへ向かってきた。
「おいおい、三根クン
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