らく、じぶんの小さい脳髄《のうずい》だけでは持ちきれないほどの推理こんらんになやんでいるのだろう。
「とにかく、さっききみは見たろう。星がどんどん姿を消していったのを。最後に窓のように残った図形の星空、それが見ているうちに、まわりがだんだんちぢまって、やがて星空は完全に消えてしまった。そして大暗黒がきた。そうだろう」
「そのとおりですけれど」
「つまりね、あの大暗黒が、怪星ガンの一部分なんだ。われわれは怪星ガンにすっかり包まれてしまったんだ」
「すると怪星ガンは霧のようなものですかねえ。それともゴムで作った袋みたいなものかしらん」
「そのどっちにも似ている。けれども、それだけではない。そのうちに、もっと何かあるんだと思う」
帆村は、謎のような、ぼんやりしたことをいう。
「もっと何かあるって、何があるの」
「あれだ。あのようなものがあるんだ」
と、帆村は下からのびてきた光る怪塔を指した。
「あれはなんでしょう。高い塔のようなもの」
「つまり、怪星ガンのなかにはあのように、しっかりした建造物があるんだ。霧かゴムのようにふんわり軟い外郭《がいかく》があるかと思うと、そのなかにはあのようなしっかりした建造物がある。いよいよふしぎだねえ」
「まるで謎々ですね」
「そうだ、謎々だ。しかし、この怪星ガンの構造がどうなっているか。その謎をとくには、もっともっといろいろ観察をして、条件を集めなくてはならない」
「ぼくは、なにがなんだか、さっぱりわけが分らなくなった。くるなら、こい。なんでもこい、よろこんで相手になってやる」
三根夫は、かたい決心を眉《まゆ》のあいだに見せて、ひとりごとをいった。
扉をたたく者
そのころ、怪塔の頂上から横にのびていた籠型《かごがた》の高架通路《こうかつうろ》のようなものが、ぴったりとこっちのロケットの横腹に吸いついた。それは、わが司令艇の出入口の扉のあるところだった。
その扉が、どんどんと、外からたたかれた。そこに当面していた乗組員たちは、ぶるぶるッと身ぶるいした。かれらは、さっそくこのことを司令室の隊長テッド博士のところへ報告した。そして特別のマイクを、扉のところへもっていって、外からたたかれる音を、テッド隊長の耳に入れた。
「おわかりになりますか。隊長。あのはげしい音を……」
「よくわかる。外で何かしゃべっているようだね」
「え、しゃべっていますか。どうせ怪しい奴のいうことだ、ろくなことではあるまい」
出入口当直員は、耳をすまして、扉のむこう側の声を聞きとろうとした。
と、そのとき、外の声が一段と大きくなった。
「この扉を開いてください。お話したいことがあります」
そういうことばが、いくどもくりかえされていることがわかった。
ていねいなことばだ。しかしいったい何者がしゃべっているのだろう。
その声は、司令室や操縦室の高声器《こうせいき》からもはっきりでていたので、いあわせた者は、みんなそれを聞くことができた。
「帆村のおじさん。本艇の外へやってきたのは誰でしょうね」
「誰だと思うかね」
「あれじゃないでしょうか。ほら、おそろしい顔をしたガスコ。ギンネコ号の艇長だといって、きのうここへはいってきたあのいやな奴」
「そうではないと思うね」
帆村は三根夫の説にはさんせいしなかった。
「おじさんは、誰だと思うんですか」
「怪星ガンの住人《じゅうにん》じゃないかと思うね」
「えっ、怪星ガンの住人ですって。それはたいへんだ。いよいよぼくらを牢《ろう》へぶちこむか、それとも皆殺しにするために有力な軍隊をひきいて乗りこんできたのでしょうか」
「ミネ君は、このところ、いやに神経過敏《しんけいかびん》になっているね。それはよくないよ。もっとのんびりとしていたほうがいい」
「だって、こんなふしぎな目、おそろしい目にあって、えへらえへらと笑ってもいられないですよ」
「とりこし苦労はよくないのさ。ぶつかったときに、対策を考えるぐらいでいいのだ。一寸さきは闇というたとえがある。先のところはどうなるかわからないんだから、それを悪くなった場合ばかり考えて、びくびくしているのは、神経衰弱をじぶんで起こすようなもので、ためにはならないよ」
「じゃあ、あの扉をあけて、外に立っている怪星ガンの人間の顔を見たうえで、対策を考えろというんですか」
「それくらいでも、この場合は、まにあうのだ。なにしろぼくたちは、すっかり自由というものをうばわれているんだから、ふつうの場合とちがうんだ。とにかく相手は、あのようにていねいなことばで呼びかけているんだから、ぼくたちを殺すとかなんとか、そういう乱暴は、すぐにはしないだろう」
そういっているとき、テッド隊長が、帆村のほうへ声をかけた。
「帆村君。いまみんなの意見を集めているんだ
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