、あのような塔の形をした交通路を、本艇のそばまでとどかせてやらなくてはならない、相手はそう考えたんだろう」
「塔が交通路なんですか。どうしてですか」
「もうすこし見ていればわかるのではないかなあ。ほら、塔の先から、こんどは横向きに、籠《かご》のようなものが伸びてきたではないか」
「あッ。ほんとだ」
伸びるのがとまった塔のてっぺんは、すこしふくれていたが、そこから籠のようなものが横向きにぐんぐん伸びて本艇の方へ近づいてくるのであった。
「おそろしい相手だ」
帆村が、ひとりごとをいった。
それを聞きとめた三根夫は、
「帆村のおじさん。さっきから、おじさんは相手がどうしたとかいいますがね、相手とはだれのことですか」
「あの塔の持主のことさ。ああして塔をぐんぐんと、われわれのほうへ伸ばしてよこすのはだれか。それがおじさんのいう相手さ」
「だれなんですか、その『相手』は」
「本艇をすっかり暗黒空間でつつんでしまった『相手』だ。本艇の電波通信力をなくしてしまった『相手』だ。いくら本艇が噴進をかけても、一メートルも前進させない『相手』だ。これだけいえば、ミネ君にもわかるだろう」
「わからないねえ」
三根夫は、ため息とともにそういった。
「わかりそうなものではないか。宇宙を快速で飛ぶ力のある本艇を捕虜《とりこ》にすることができる『相手』だ。ただ者ではない。もうわかったろう」
「あッ。すると、もしや……」
三根夫はがたがたとふるえだした。
帆村がなにをいっているか、ようやくわかってきた。が、もしそれがほんとうならこれは大変なことだ。
「やっとわかったらしいね」と帆村は青白い顔にかすかな笑みをうかべた。
「ミネ君われわれは本艇とともに、ついに怪星ガンにとらえられたのだ。もはやわれわれは、怪星ガンの捕虜でしかないのだよ」
怪星ガンの捕虜になってしまった! ああ、なんという意外、なんというおそろしさよ。テッド博士以下の救援隊員の運命は、これからどうなるのであろうか。おそるべき怪星ガンの正体は何?
怪星の正体
怪星ガンの捕虜《とりこ》になってしまったというのだ。
これが、日ごろ深く尊敬し信用している帆村荘六のことばであったが、三根夫は、こればかりは、すぐに信用する気になれなかった。
なぜといって、あまりにだしぬけすぎる。とつぜん『怪星ガン』がとびだしてきて、しかもじぶんたちは、そのなかにもはやとりこ[#「とりこ」に傍点]になっているというのだ。
そのまえに三根夫は、怪星らしいものの片影《へんえい》すら見なかった。だから、その怪星のとりこになったなどといわれても、さっぱりがてんがいかない。それに、星がロケット隊をとりこにするなんて、そんなことができるのであろうか。いったい、どんなにして、それを仕とげるのだろうか。
もっとも、わがテッド博士のひきいる救援艇ロケット隊が探している『宇宙の女王《クィーン》』号が、さいしょに打った無電によると女王号もどうやら怪星ガンのとりこになったらしくは思われるが。
三根夫の頭のなかには、花火が爆発したときのようなにぎやかさで、たくさんの疑問が入りみだれて飛ぶ。
「帆村のおじさん。怪星ガンというやつは、どこに見えるのですか」
三根夫は、ついに質問の第一弾をうちだした。かれの唇は、こうふんのために、ぴくぴくとふるえている。
「どこに見えるといって、われわれは怪星ガンの腹の中にはいっているんだから、外を見て見えるものはみんな怪星ガンの一部分だと思うよ。これはいまのところわたしだけの推理だがね」
帆村荘六の顔は、死人の面のように青く、こわばっている。
「では、あの塔みたいなものも、怪星ガンの一部分なんですか」
「それはたしかだと思う」
「でも、へんですね。星というものは、ふつう表面が火のように燃えてどろどろしているか、あるいは表面が冷えて固まっているものでしょう。ところが、怪星ガンはそのどちらでもないようですね。なぜといって、火のように燃えている星なら、ぼくたちも、たちまち燃えて煙になってしまうでしょうが、このとおり安全です。おじさん、聞いている?」
「聞いているよ」
「また、怪星ガンが表面が冷えかたまっていて、地球や月のような星なら、その星の腹へ、ぼくらのロケットをのみこむといっても、できないじゃありませんか。だから、怪星のとりこになっているといわれても、ぼくは信じられないや」
そういって三根夫は、帆村の返事はどうかと、顔をのぞきこんだ。
「きみは信じないかもしれないが、きみがのべた二つの星の状態のほかにも、星の状態というものはいろいろあると思う。そしてわたしたちは、その一つの実例を、いま目のまえに見ているのだ。そう考えることはできるだろう」
帆村のことばがむずかしくなる。かれもおそ
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