に大きな力を持っていると思われる。あのきみょうな放電現象によって、本艇の外廓《がいかく》のうえには、黒いペンキのようなものが塗られた。そのために外が見えなくなった。この考えはどうですか」
「なるほど、その説によると、外界《がいかい》が見えなくなったことは、説明できるが、しかし本艇がガスを噴射しているにもかかわらず、すこしも前進しないのは何故かという説明がつかない。それとも、このうえにもっときみは説明をくわえますか」
「その黒いペンキのようなもの――それは非常にねばねばしたもので、われわれにはちょっと想像もできないが、それはしっかり本艇を宇宙のある一点へとめているのではなかろうか。つまり蠅《はえ》がとりもちにとまって動けなくなったとおなじように、本艇は、そのねばねばしたまっ黒いものに包まれ、そして動けなくなったのではないですかな」
「その考えはおもしろいが、しかしそれは想像にすぎない。想像ではなく、もっとはっきりした事実をつかまえ、そのうえに組立てた推理でなくてはならない」
「ですが、地球のうえならばともかく、このように宇宙の奥まで入りこんでいるのですから、ここではだいたんなものさし[#「ものさし」に傍点]で測る必要があります。地球のうえだけで通用するものさしで測っていたんではだめだと思います」
「そういう議論はあとにして、もっと実際の問題を論じてもらいたいね」
 と、テッド隊長は注意した。
 すると一同は、だまってしまった。
 どう解こうにも、さっぱり手がかりがないとは、このことだ。さすがの救援隊のちえ袋といわれる博士たちも、いいだすことがなくなった。
「なにか考えをいってもらいたい」と、隊長はさいそくした。
 しかし一同は、たがいに顔を見合わすばかりだった。
 やっと口を開いた者があった。それは帆村荘六だった。
「さっぱり手がかりのないことを、いくら論じてみても、むだだと思います。それよりはもうすこし時間のたつのを待ったうえで、なにか新しい手がかりのみつかるのを待ち、あらためて論ずることにしてはどうでしょうか」
「まあ、そういうことになるね」
 隊長は、帆村の説にさんせいした。
「では、しばらく待とう。会議はひとまず解散だ」
 そういって隊長テッド博士が椅子から立ちあがったとき、三根夫がとつぜん大声で叫んで、テレビジョンの幕面を指した。
「あッ、光った棒のようなものが、下のほうからこっちへ伸びてきますよ。あれはなんでしょう」


   光る怪塔《かいとう》


 光った棒のようなものが、下のほうからこっちへ伸びてくるとは何事であろう。
 三根夫少年が指すテレビジョンの映画へ、隊長以下の視線があつまる。
 ほんとうであった。たしかに光る棒が下方から伸びあがってくる。春さきの筍《たけのこ》が竹になるように伸びてくるのだった。
 それまでは四方八方が暗黒だったから、テレビジョンの幕面にはなんの明かるいものも見えなかった。ところがいま、三根夫の発見により、はじめて艇外に、目に見えるものが現われたのである。
「なんだろう。やっぱり棒かな」
「棒ともちがう。割れ目のようでもある」
「割れ目? なんの割れ目」
「割れ目ができて、となりの空間のあかりが割れ目からさしこむと、あのようになるではないか」
「なるほど」
「ちがう。光りの棒でも割れ目でもない。光る塔だ」
「光る塔! なるほど塔みたいだ。そうとう大きなものだ。しかし宇宙のなかに塔があるとは信じられない」
「だめだ、そんな風に、地球上だけで通用する法則だけにとらわれていては、この大宇宙の神秘はとけないですよ」
「また、さっきの議論のむしかえしか」
「いや、そうとってもらっては困る。とにかくわれわれは、頭のなかを一度きれいに掃除しておいて、そのきれいな頭でもって、われわれの目のまえに次々にあらわれる大宇宙の驚異《きょうい》をながめる必要がある。そうでないと、その驚異の正体を、はっきり解くことができないからねえ」
「おやおや、すてきに大きい塔だ。どう見ても塔だ。わたしは気がたしかなのであろうか」
 白光につつまれたその巨大なる怪塔は、下からぐんぐん伸びあがってきてやがて本艇と同じ高さにたっした。本艇の窓という窓には、艇員の顔があつまり、びっくりした顔つきでその光る怪塔を見まもる。
「帆村のおじさん。あの塔はなんでしょうか」
 三根夫は、このときやっとわれにかえり、帆村に質問をかけるほどのよゆうができた。
「はっきりはわからないが、あれは相手がわれわれに、一つの交通路を提供しようというのじゃないかなあ」
「なんですって」
 三根夫にとっては、帆村のいうことがさっぱりわからなかった。交通路の提供だの、相手だのというが、なんのことだろう。
「つまりだ、相手は、われわれに会いたいのだ。会うためには
前へ 次へ
全60ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング