が、きみはどう考えるかね。扉を開いて、相手の申し出におうずるかどうか、きみの考えは」
帆村はうなずいた。
「わたしは、すぐ扉をあけて、相手と交渉にはいったがいいと思います」
「ほう。きみもやっぱりそのほうか。扉をあけるのはいいが、艇内の気圧が、いっぺんに真空に下がるだろうと思うが、このてん考えのなかにはいっているかね」
「わたしは、そのてんも心配なしと思います。つまり、扉の外は、じゅうぶんに空気があるんだと思うのです。なぜなら、外から声をかけられるんですから、外に空気があり、相手は空気を呼吸しながら立っているんだと推察《すいさつ》しているのですが、隊長のお考えは、いかがです」
「うん。きみのいまの説によって、完全に説明しつくされた。そうすれば、外部に空気があることが信じられる。しからば、わしもさっそく扉をあけて、相手に面会する決心がつくというものだ」
「では、どうぞ、しかし、びっくりなすってはいけませんよ」
「なんだって。びっくりするなとは、何が?」
「それはだんだんわかってきましょう。いまのところわたしの想像にとどまりますが、なにしろ相手は怪星ガンの一味と思われますから、ずいぶんわれわれをふしぎな目にあわせるかもしれません」
「うん。覚悟はしているよ」
このあとで、テッド隊長は命令を発して、ついに本艇の一番大きい戸口の扉をひらかせた。
「やあ。とうとう扉を開いてくださいましたね。みなさん。よく、ここまでいらっしゃいましたね。これから仲よくいたしましょう」
相手の声が、はっきりと聞こえた。だが、ふしぎなことに、その相手の姿はどこにも見えなかった。姿なきものの声だ。なんという気味のわるいことであろう。
魔か人か
テッド博士は、救援隊の幹部とともに、開かれた扉のほうへわるびれもせず、進んでいった。博士は、ここしばらくの間が救援隊全員にとって、もっとも重大なときだと感じていた。
相手は鬼か、神か、魔物か怪物か、なにかは知らない。しかしいかなる相手にもせよ、博士は身をもって隊員たちの生命の安全をはからねばならないと、かたく決心していた。
なるほど、空気のことは心配ないようだ。そのままで呼吸にさしつかえない。いったん空気服を身体につけた者も、ぼつぼつそれを脱ぎはじめた。帆村の判断は正しかったのだ。
それにしても気味のわるいのは、声のする相手の姿が見えないことであって、それにおびえてだれも返事をする者がない。
姿なき声は、べつにきげんをそこねたようすもなく、ひきつづいて、こっちへことばをかける。
「どうか、みなさんは、この橋を利用してください。ごらんのとおり、この橋はまっすぐに伸び、やがてはしに達します。そこにはエレベーターがあって、上り下りしています。それに乗って、下までおりてごらんになるよう、おすすめします。みなさんはそこで、なつかしい市街《しがい》をごらんになることでしょう。いろいろな飲食店もあり、生活に必要な品物をも売っている店もございます。どうぞごえんりょなく、ご利用ください」なんということだ。まるで大きな百貨店の玄関で案内嬢から店内の案内を聞くような気がする。
だが、姿なき声がのべたてる案内は、とても信じられなかった。こんなへんぴな天空《てんくう》に市街などがあって、たまるものか。飲食店や売店があるといってもだれが信じるだろうか。いや、それどころかエレベーターのついている塔が、下から上へ伸びあがってきたことさえ、たしかに目で見たにちがいないのに、信じられないのだ。夢を見ているとしか考えられない。
こういう感じは、テッド隊長以下、すべての乗組員の頭のなかにあった。
「ご親切なることばに感謝します。ですが……」と隊長テッド博士は、あいさつをはじめた。
「ですが、われわれはいま、どういうところにいるのでしょうか。またあなたは、どういう方ですか。われわれには、あなたのお姿が見えないのです」
こっちからの話が、相手につうずるかどうか、博士には自信がなかったが、それはともかく、いいたいだけのことをいってみた。すると、相手が返事をした。
「いろいろ疑問をもっておいでのことは、よくわかります。今、それについて完全なるお答えをすることができません。それは、わたしどもが秘密事項をあなたがたに知られたくないというのではなく、完全なるお答えをして、あなたがたにわかっていただくには、かんたんにはいかないからです。つまり、かなりの時日《じじつ》をかけないと、おわかりになれないと思うのです。ですから、質問のすべてを一度にとくのはおやめになって、これから毎日すこしずつ、市街を散歩するなりだれかと会って話しあうなりして、だんだん疑問をといていかれたがよいと、それをおすすめします」
相手は、ますますねんのいった話しかたで博士
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