ずれも頭や顔に大きなこぶをこしらえて、ほうほうのていで艇長室から逃げだしてきた。
「ちょッ。やくに立つやつはひとりもない。これっきりで、わしがぐずぐずしていた日には、女王《クィーン》から、どんなお叱りをうけるか、たいへんなことになる。こいつはなんでも早いところ、すぐさま宇宙線レンズで、テッド隊のロケット九台を焼き捨ててしまうにかぎる。そうだ。それしか手がない」
 怪人ガスコは、卓上のマイクを艇内全室へつなぐと、それに向かって命令のことばをどなった。
「砲員の全部は、宇宙線レンズのあるところへ集まれ。宇宙線レンズ係りは、すぐ使えるようにいそいでレンズを艇の外へ突きだせ。わかっているだろうが、これからテッド隊のロケットをぜんぶ焼きはらうんだ。わしはすぐ、そこへいく。それまでに用意をしておけ」
 マイクのスイッチを切ると、怪人ガスコは両の拳《こぶし》でじぶんの胸をたたきわらんばかりに打った。そしておそろしい声でうなった。それはどうしても野獣の叫び声としか思われなかった。


   大異変《だいいへん》


 ギンネコ号では怪人ガスコの命令により、宇宙線レンズ砲が、むくむくと動きだし、艇外へぬっと砲門をつきだした。
 あとは、ガスコの「焼け」という号令一つで、このレンズ砲が偉力《いりょく》を発し、たちどころに救援隊ロケット九台を火のかたまりとしてしまうことができるのだ。
 それぞれの宇宙線レンズ砲についている砲員たちは、ガスコの号令をいまやおそしと待ちうけた。
 ガスコは、レンズ砲の用意のできたという報告を受取った。よろしい、いまやテッド博士以下を赤い火焔《かえん》と化《か》せしめ、『宇宙の女王《クィーン》』号の救援隊をここに全滅せしめてやろうと、かれは覆面の間から、ぎょろつく目玉をむきだし、相手をにらんで「焼け」という号令をマイクにふきこむために、その方へ口を寄せた。
 ああ、テッド博士以下の救援隊員の生命は風前の灯である。全滅まえのたった一秒まえである。ガスコが、のどから声をだせば、すなわちテッド博士以下の生命はおわるのだ。
「ややッ!」
 おどろきの叫び声! 叫んだのは、余人でない、怪人ガスコだった。
 かれは両手でじぶんの大きな頭をおさえ、はあはあと、あらい呼吸《いき》をはずませた。
「ちぇッ、おそかったか……」
 と、ガスコが二度目のおどろきを発したそのときには、
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