やる」
そういったかと思うと、スコール艇長はいきなり事務長のえりがみをつかんでかるがると宙吊《ちゅうづ》りにした。そしてとなりの浴室の戸をあけて、中へつれこんだ。
それからしばらく、生理的なテイイの声がげえげえと聞こえていたが、そのあとで水がばちゃばちゃはねる音がした。と、戸があいて艇長が事務長を猫の子のようにぶらさげてあらわれ、長椅子のうえにほうりだした。
テイイが死にかかっているようにぐったりしていると艇長はどこから取り出したか、いばらの冠《かんむり》みたいなものを手に持って事務長の頭にかぶせた。そしてその冠のうえについている目盛盤をうごかした。すると事務長は、電気にふれたように、ぴくッとなり、棒立ちになってとびあがった。かれの頭髪は箒《ほうき》のように一本一本逆立ち、かれの目は、皿のように大きく見ひらかれている。
「あ、あ、あ、あ、あッ」
かれは唇をぶるぶるふるわせたあとで大きいくしゃみを一つした。するとかれの頭から冠がぽんとはねあがった。スコール艇長はそれをすばやくじぶんの服の中にかくしてしまった。
「ふふふ。人間というやつは、あわれなもんだて、脳や神経の生理について、なんにも知っていない。ふふふ」
艇長ははや口で、ひとりごとをいった。
「艇長、いまなにかおっしゃいました」
「おお、きみの気分はよくなったかと聞いたんだ」
「そうでしたか。おかげさまで、気分がはっきりしました」
事務長は、そういって満足してしまった。もしスコール艇長のあのひとりごとを、他の人間が聞いていたら、さぞふしんに思ったことであろうに。
そこで事務長は、怪艇長のうしろにしたがって、艇長室へはいった。ふたりは、せまいが、ふかぶかとした弾力のつよい椅子に腰をおろして向きあった。その椅子は重力に異常のあったときに、からだを椅子にしばりつけるための丈夫なバンドがひじかけのところについているものだった。
「さて、事務長。あのテッド博士のひきいる残りの九台の救援ロケットは、すこしもはやく破壊してしまわなくてはならない」
「はあ、なるほど」
あんまりはっきりした話なので、さすがの古狸《ふるだぬき》のテイイ事務長も、かんたんな返事しかいえなかった。
「わしがこんど持ってきた器械に、宇宙線レンズというのがある。これは太陽をはじめ、他の大星雲などからもとんでくる強烈な宇宙線を、みんな集めてた
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