と一言つぶやくのがれいだった。
だから伯父帆村荘六が、いままでになく『宇宙の女王《クィーン》』号の遭難事件が、やがて全世界の人々をすっかりおびやかすほどの大事件にまで発展することを予言したのは、伯父がこの事件について、よほどおどろいたせいなのであろう。
いや、さもなければ、伯父はなにかこういう事件の発生を待ちかまえていたところだったので、臨時ニュースを聞いているうちに、それだと知ってきゅうにおどろいたのかも知れない。伯父がメモに取った速記は、いまの臨時ニュースの全文のうつしなのであろう――と、三根夫は思った。
「世界じゅうの人々がさわぎだす事件て、それはいったいどんなことが起こるんですか」
「さあ、それはしばらくようすを見まもっているしかないね」
このときはやくも伯父は、いつもの慎重な探偵の態度にもどってしまった。
そのときであった。けたたましい呼出し音響《おんきょう》とともに外から電話がかかってきた。
「お、きたようだ」
帆村は、かれにしか意味のわからないことをつぶやいて、電話機のほうへ足早にいった。
かれがスイッチを入れたのは、国際電話の器械のほうだった。やはりテレビジョンがついていて、電話をかけてくる相手の顔が映写幕にうつる方式の電話機だった。
映写幕のなかに、血色のいいアメリカ人の顔がうつった。顔の背景に、宇宙図が見えていた。
「やあ、ミスター・ホムラ。ぼくはきみを引っ張りだす役目を仰《おお》せつかったのだ。うちの社できみを雇って、出張してもらおうというんだがね、行先は宇宙のまっ只中だ。聞いたろう、さっきの臨時ニュース放送を……」
ぶっきら棒に、さっそく用件を切りだしたそのアメリカ人は、ニューヨーク・ガゼット新聞の社会部記者として名の高いカークハム氏だった。そして彼カークハム氏は、これまで二、三の事件を通じて帆村荘六と知合いなのであった。
「だしぬけにぼくを引っ張りだして、どういう仕事をやれというのかね、カークハム君」
そういう帆村の声は、いつもの落ちついたしずかな調子であった。
「明朝はやく、こっちから『宇宙の女王』号の救援艇が十|隻《せき》出発する。その一つにきみは乗るんだ。もう救援隊長テッド博士の了解をえてあるが、きみは『宇宙の女王』号の捜査にしたがうんだ。そして記事を全部わが社へ送ってくれるんだ。わが社は、それを新聞、ラジオ、テレビ
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