とも近きものは、現場より千三百万キロメートルをへだてた空間にある宇宙|採取艇《さいしゅてい》ギンネコ号であります。
 以上がただいまお知らせすることの全部でありますが、十時の定時ニュースのときに、ついか放送することがあるはずでございます。
 サミユル博士の『宇宙の女王』号遭難説に関する臨時ニュース放送をおわります」


   国際電話で


 臨時ニュースを聞きおわって、三根夫は、すがりつくように伯父のほうへ目を向けた。
 すると帆村は、いつのまにか暗号器からはなれていて、小さな腰掛のうえに腰をおろして足を組み、膝のうえにメモをひらいて、鉛筆をにぎっていた。三根夫が見たとき、帆村はメモのうえに書きつけた速記文字を熱心に見入っていた。
「おじさん。たいへんなことがおきたものですね」
 すると帆村は無言のままメモを持って立ちあがり、しずかに事務机のうえにおいた。このとき帆村の唇が、ぎゅっとへの字にまがった。それはこの名探偵が、何かある重大なる手がかりをつかんだときにするくせだった。
「おじさん。どうしたんですか」
 三根夫は、伯父からしかられるだろうと思いながらも、そういって聞かずにはいられなかった。
「うん。これはまさに重大事件だ。わら小屋の一隅《いちぐう》に、マッチの火がうつされて、めらめら燃えあがったようなものだ。見ていてごらん。いまに世界じゅうをあげてさわぎだすようになるだろう」
「いまではもう世界的事件になっているではありませんか。臨時ニュースで放送されるくらいですもの」
「いや、それでもいまは、まだマッチの火がわら束《たば》にうつったくらいだ。やがで世界じゅうの人々が火だるまになってわら小屋からとびだしてくるだろう。――おや、おや、僕はとんでもない予言をしてしまったね。予言することは、このおじさんはほんとは大きらいなんだが……」
 そのとおりであった。伯父は、事件の捜査にあたって、いろいろな証言や証拠品がそろって、もうだれにも「かれが犯人だ」といえるようになっても、伯父はけっしてそれを、ひとにいわないのだった。また次の日、犯人がある場所へあらわれることを知っていても、それをけっしていわない人だった。そういうときは、伯父はその日になってその場所へいって待っている。そして犯人がほんとに姿をあらわしたときに、伯父ははじめて「そうだ。そうこなくてはならなかったのだ」
前へ 次へ
全120ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング