困った。
 ガスコは、ハイロのほうへ寄ってきた。そして一挺のピストルをポケットにしまい、そのあいた方でハイロの頭を手さぐりして、かれの大きな耳をつかんだ。
「やい。きさまも、はやくお面をぬぐんだ」
「あ痛た、たッたッたッたッ」ガスコは、ハイロが正真正銘のガン人であることにもっと先に気がついていなくてはならなかった。ハイロの頭や手足が見えなくなったときに、ハイロこそガン人のひとりだとさとるべきだった。ところがガスコは、はじめからハイロを、三根夫とおなじ地球人であると思いこんでいたために、この重大なまちがいをしでかしたのだ。
 ハイロは、いやというほどガスコに耳をねじられたので、すっかり怒ってしまった。
「らんぼうなことをする奴だ。おまえさんは何者だ。見れば地球人じゃないか。地球人のくせにガン人であるわしを殺すというのかい」
 と、ハイロにせまられて、ガスコは返事につまった。ガン人を殺すことは許されないのだ。まんいちそんなことをしたら、あとで極刑《きょっけい》になるのはわかり切っていた。
「いや。きさまはガン人なものか。地球人にちがいない。はやくそのお面をぬぐんだ。ぬがないと、このピストルがものをいうぞ」ガスコは、苦しまぎれに、ハイロを地球人といいはって、この場の不利をごま化そうとした。ハイロは、ますます怒った。
「ばかなことをいうな。おまえさんじゃあるまいし、顔の皮をむいて、下からもう一つ顔をだすなんて、そんな器用なことができるものか。わしはガン人だ。見そこなってもらうまい」
「いや、ガン人なものか、地球人だ。引っ立てて、警備軍へ渡してくれるぞ」
 さすがのガスコも、相手がガン人とわかっては、ピストルの引金《ひきがね》を引くわけにいかなくなり、こんどは警備軍へひき渡すといいだした。
 このとき三根夫がハイロのところへ寄った。そしでハイロの耳に、なにかをささやいた。ハイロは大きくうなずくと、目を皿のようにして、ガスコのほうへ一歩前進した。
「わしはガン人として、おまえさんに聞きただすことがある。おまえさんは、何の理由があって立入り禁止の天蓋をうろうろしているのかね」
「うむ。それは……」
 と、ガスコは痛いところをつかれて、醜い顔をいっそうゆがめて、ことばにつまった。
「まだおまえさんに聞くことがある。おまえさんが、あそこへおいてきた長い筒は、あれはいったい何に使うもの
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