いるくせに、すうーッと吸いつけるような肌ざわりのものであった。
 扉に鍵をかけて、三根夫は、ほっと息をついた。
「かわいそうに。いつから気がちがったんだろう。これはたいへんなことになった」
 と、帆村は、壁のところへ身を引いて、目を丸くして三根夫をながめた。
「はははは。はははは」
 三根夫は、おかしくてたまらず、大きな声で笑った。帆村には、あの怪物の姿が見えないのだ。だから三根夫のすることが、さっぱりわけがわからず、三根夫は頭が変になったのだと思ったのだ。そのやさきに、三根夫が大きな声をあげたもんだから、いよいよ三根夫は頭が変になったにちがいないと思い、沈痛な面持になり、大きなため息をついた。
 帆村がすべてを知るまでには、それからしばらく時間がかかった。それと、三根夫のくどくどと説明のくりかえしがひつようであった。変調眼鏡を見せられて、帆村はやっとすべてを了解したのであった。それがなければ、帆村はその後もながい間、三根夫のことを変だと思っていたろう。
「やあ、安心したよ。ぼくは、絶壁の上へつきやられたような気がしていたよ。そうか、そうか。これを手に入れたとは、三根クンの一番大きいお手柄だ。ふーン南京《ナンキン》ねずみが、そんなに高く売れたとは、おもしろい」
 三根夫の頭が変になったのでなかったことが、よほどうれしかったと見え、帆村のひとりしゃべりはしばらくやまなかった。


   秘密の指令


 三根夫がはるばる地球から持ってきて、これまで飼いつづけた南京《ナンキン》ねずみは、このようにお手柄をたてた。そして、それはお手柄のたてはじめであったともいえる。というわけは、それからも南京ねずみはたいへんよく売れた。みんなハイロが買いとっていくのだった。売り手も、もちろん三根夫ひとりであった。
 その南京ねずみも、はじめとはちがって、だんだんに、いいおそえものがつくようになった。それはかわいい南京ねずみの家であった。赤や青や黄のペンキで塗られ、塔のような形をしたものもあれば、農家そっくりのものもあった。それから南京ねずみのくるくるとまわす車も、だんだんきれいな模様がつくようになった。ハイロのよろこんだことはいうまでもない。かれはそれを、いままでの分よりももっと高価に、ガン人たちへ又売りをすることができるのであったから。
 このだんだん手のこんできた美しいおそえものは、
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