いね」
「それでわかりました。隊長、三根夫君がこの籠にいれて飼っていた白い南京《ナンキン》ねずみが、この中からにげだして、奥へとびこんで、ハイロをおどろかしたのだろうと思いますよ」
「まさか。そんなかわいい小ねずみにおどろくようなことはないだろうに」
だが、それはほんとのことだった。帆村が奥へいってみると、料理場にちがいない部屋で、三根夫がはらばいになって、一ぴきの南京ねずみを一生けんめいに追いまわしていた。
その小ねずみが、つつーと走るたびに棚の上から食器やなんかが、がらがらとおちたり、カーテンがベリベリと破れて、床の上へ大きなものが落ちたような物音がしたり、それからまたひとりで箒《ほうき》が宙をとんだりした。
これらのふしぎな現象は、みんなハイロがにげまわって、さわいで起こすところのものであった。
「ハイロ君。こわがらなくていいよ。その小さい白い動物は、わたしたち地球の世界では、一番かわいがられる動物なんだ。一番おとなしくて、かしこいのだ。きみはすこしもおそれることはない」
帆村が落ちついた声で室内の見えぬ姿へ話しかけた。
その効果はあった。ハイロの声がいった。
「ほんとに大丈夫ですか。わたしに危害をくわえるようなことはありませんか。魔ものではないのですね」
「そうだとも。いまもいったように、地球の世界では、みんなにかわいがられている一番おとなしくて、かしこい動物なんだ。ナンキンねずみというのだよ。三根夫が飼っていたのだ。それがさっき籠からにげだしたのだ。見ていたまえ。三根夫があの南京ねずみをつかまえたら、きみのために、いろいろとおもしろい芸当をあの南京ねずみにさせて見せてくれるだろう。そのときは腹をかかえて大笑いをしたまえ」
「そうですか。ほんとですか」ハイロの声は、安心のひびきを持っていた。
宇宙戦争の心配
テッド博士一行は、そこをひきあげることにして、サミユル先生にあいさつをのべた。
「では先生、またお目にかかりましょう。一度わたしの艇までおいでを願いたいと思いますが、いかがでしょう」
「ありがとう。それは相談をしたうえのことにしましょう」
「誰に相談なさるのですか」
「そりゃきみ、わかっているだろう」サミユル老師《ろうし》は悲しい目つきをした。
そこでテッド博士は、心ひそかに思った。
(なるほど。この怪星ガンの国は、われわれに
前へ
次へ
全120ページ中72ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング