ぺんへほうりあげられた形だ。
「わかりました。サミユル先生。あなたがたもやはり捕虜生活をつづけていらっしゃるんですか」
「そのとおり」
「この怪星ガンの正体は、いったいどんなになっているものですかな」
「それは残念ながら、まだ知りつくすことができない。しかしわしたちのさっするところでは、人工の星ではないかと思う」
「人工の星とは?」
「天然の星ではなく、人力《じんりょく》というか何というか、とにかく現にこの怪星に住んでいる智能のすぐれた生物が、――あえて生物という、人間だとはいわないよ――その生物がこしらえたものじゃないかと思う」
「だって、この大きな星を人工でこしらえあげるなんて、できることでしょうか」
「われわれ地球人類の想像力の範囲では、とてもこの怪星の秘密を知りつくし、解きつくすことはできないであろう。われわれは一つでもいいから、じっさいに存在するものを観察して、その上にだいたんな結論をたてるのだ。そういう結論をいくつもいくつも集めたうえで、それらを組合わせるのだ。すると、そこにこの怪星の正体が、おぼろげながらもだんだんはっきりしてくるのだと思う」
 さすがに世界的な老探検家サミユル博士のことだけあって、しっかりした考えを持っているのに、テッド隊長は心から感動した。
「それはそれとして、この怪星はいったい何者が支配しているのですか」
「れいの生物のなかで、智能のすぐれた者が、この怪星をしっかりおさえているんだと思う」
「われわれを捕虜にして、これからどうしようというつもりなんでしょう」
「それは――」と、いいかけてサミユル博士は口をつぐんだ。奥からコーヒーの香《か》がぷーんと匂ってきたからである。三根夫は見た、カーテンがゆらいで、銀の大きな盆《ぼん》のうえに、湯気《ゆげ》の立ったコーヒー茶碗が、宙をゆらゆらゆれながらこっちへ近づいてくるのを……
「あっはっはっはっ。まあまあ、ひとつ呑気《のんき》に愉快に暮らしていこうじゃないか」
 老博士は、とってつけたようにいった。
「コーヒーをどうぞ」
 ハイロの声が、近くに聞こえた。おだやかな声だった。コーヒーは一同にくばられた。
 そのときだった。銀の盆が大きく床に鳴った。ハイロのおどろいた声。
「あッ、怪物。あんなところに怪物が! たいへんだ」
 ハイロは足音もあらく奥へとびこんだ。警鈴《けいれい》らしいものが鳴り
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