かん》があり、義務さえあるように感ずるのです。そうした気持が、私をして敢えて誓いの鎖《くさり》をひきちぎってまで貴方《あなた》に御話することを決心させたのでした。それはあり得べき事か、またはY――の錯覚《さっかく》であるか、それはこの物語がすんだあとで貴方は当然私に答えて下さらなければならないのです。――
 ではその話を始めましょう。私がY――から聴いたときのように、彼の口調を真似《まね》ておはなしを致しましょう。ですから、次のものがたりで「僕」というのは、とりもなおさずY――自身のことだと思っていただかなければなりません。
     *   *   *
 僕は少年時代からラジオの研究に精進《しょうじん》していたラジオファンとして、あの茫莫《ぼうばく》たるエーテル波の漂う空間に、尽《つ》くることなき憧憬《どうけい》を持っているのでした。それは僕が始めて簡単な鉱石受信機を作って銚子《ちょうし》の無線電信を受けた其の夜から、不思議に心を躍らせるようになった言わば一種の「萌《も》え出でた恋」だったのです。僕は毎晩のように鉱石の上を針でさぐりながら、銚子局の出す報時信号《タイム・シグナル》のリ
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