ズムに聴《き》き惚《ほ》れたものです。受話器を頭から外《はず》して机の上に横たえておきましても三四尺も離れた寝床に入っている僕の耳にそのシグナルは充分《じゅうぶん》はっきりと聞きとれました。エーテル波の漂う空間の声! 僕はそれを聞いていることにどんなに胸を躍らして喜んだことでしょう。いつの間にやら夜《よ》も更《ふ》け過ぎてしまった、戸外《とのも》は怖ろしい静寂の中に、時々|凩《こがらし》が雨戸の外を過ぎて行くのに気が付きまして、急に身体中が寒くなり夜着をすっぽり頭から引被《ひっかぶ》って無理に眠りを求めるなどという事も間々ありました。
年月はうつりかわっていつの間にやら我国にも放送無線電話が始まりました。エーテルの世界には毎晩のようにJOAKの音楽やらラジオドラマが其の強力な電波勢力を誇《ほこ》りがおに夜更けまでも暴れているような時勢《じせい》になりました。僕はただもう、そういう放送によってエーテルの世界が騒々《そうぞう》しく攪《か》きまわされることが厭《いや》でたまりませんでした。僕は反感的に放送を聴くことを忌避《きひ》していました。そして其の頃にはまだホンの噂話だけであった短波長
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