すら居ませぬ。僕は到頭腹を立てて仕舞《しま》って、こっちから憲兵隊へ押しかけました。ところが驚いたことには、何と言っても僕を例の将校達に会わせないのです。そればかりか遂《つい》には僕をありもしない妄想に駆《か》られている人あつかいにして警官を呼ぼうなどと言うではありませぬか。僕は泪をポロポロ流し乍ら、その下宿へ引きかえさねばなりませんでした。
 それからと言うものは、このことが頭にこびりついて、君も知るとおりの神経衰弱のようになって仕舞いました。しかし僕の一念は何としてもセントー・ハヤオの不思議な通信によって暴露《ばくろ》した事実をつき留めずには居られませんでした。僕はそれから約一年を辛抱《しんぼう》しました。そして夏になるのを待ち兼ねて、セントー・ハヤオが報じたN県東北部T山をK山脈へ向う中間の地点へ登攀《とうはん》しました。其処《そこ》近辺《きんぺん》を幾日も懸ってすっかり調べ上げました。背の高い雑草には蔽《おお》い隠《かく》されていましたが、彼《か》のセントーが物語ったような地形ではあり、又そぎ取ったような断崖《だんがい》もありました。
 いやそればかりではありませぬ。ところどこ
前へ 次へ
全27ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング