なくされ、其の翌日僕はやっと帰宅を許されました。セントー・ハヤオの事が気がかりで飛ぶように下宿の門をくぐりました。僕の室に入ってみますと、下宿の内儀《おかみ》が普段大事にしている座蒲団が五枚も片隅にうず高く積み重ねられているのを発見した時、僕は万事を直感してしまった。内儀に訊《ただ》すと果《はた》せるかな、僕が前日憲兵隊に引留《ひきと》められている間、数名の将校が僕の室を占領し、昨夜は一同眠りもやらず徹夜し、今朝がたになってやっと引上げて行ったとの事でした。僕は不愉快でたまりませぬ。しかしセントー・ハヤオのことが一層気にかかるので大急ぎで短波長の送受信機の前に座って受話器を耳に当てたり、送信機の電鍵を叩いたりしましたが、機械はたしかによく作働しているのにも拘《かかわ》らず、何時まで経ってもセントー・ハヤオの打ち出す無線電信の応答は聞こえませんでした。かくして夜《よ》に入りました。依然として何の信号も入って来ませぬ。そして空《むな》しく其の夜は明けはなれて行きました。
 僕は其の日に例の将校連が来るかと不眠に充血した眼を怒らして待ちうけましたが、誰一人としてやって来ません。勿論歩哨の兵士
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