な君は、それから先、僕等二人がどんな気持に落ちて行ったかを察することが出来るだろう。実は彼女と魂をより添《そ》わせるようになってから今日が二日目である。彼女は既に人妻である。僕等の恋は不倫《ふりん》であるかも知れない。それは恥《はず》かしい。が恋の力はそんな観念を飛び越えさせてしまった。彼女は僕に脱走をすすめる。しかし、僕は敵国人の行動を報告すべき重大任務を有するし、又|迚《とて》も脱走が成功するとは思わない。今は少しでも彼女と魂を相《あい》倚《よ》せて、未来の結縁《けちえん》を祈るばかりだ。
君よ。僕の情念《じょうねん》を察して呉れ給《たま》え。しかし僕は自分の任務をおろそかにはしない。この苦しき恋を育《はぐく》んだ日《ひ》の本《もと》の国を愛するが故に……」
これを受けた僕の頭脳の中は、何がなんだか妙な気持に捉《とら》われました。僕等の受信が終ったのを見届けると将校達は二人の兵士を残して僕の室を辞去しました。その二人の兵士は直ぐ様、僕の下宿の門に歩哨に立ちました。
翌日早朝僕は憲兵隊へ呼ばれて終日くどくどした訊問を受けねばなりませんでした。その夜は隊へ宿泊《しゅくはく》を余儀
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