り上げました。
彼がそれから簡単に僕に送って来た信号の文句は僕を一層驚かせました。彼は祖国の危険を報ずることが出来て大変嬉しいこと、尚これから先も敵国人の行動を報告すべき一層重大なる責任を負っていることを一寸語りました。それから彼は、やや送信の手を躊躇させたようでしたが軈《やが》て思い切ったように明瞭に打ち出しました。
「僕は最早死を覚悟している。僕は此処三四日の内に殺されるそうだ。実はさきほど敵国人の一人が秘《ひそ》かに僕に告白したので判った次第である。
君は敵国人が秘かに僕に告白したことを不思議に思うだろう。その敵国人というのは実は妙齢《みょうれい》の婦人であって、多分御察しのとおり此の恐ろしい団体に加わっている人の妻君である。彼女は夫について到頭《とうとう》こんなところに来てしまった。彼女は僕達に三度の食事を搬ぶ役目を持っている。僕は彼女を一目見たときに何処かで見たような女だと思った。
話してみると判った。彼女は僕が会社で自分の配下につかっていた助手の妹で、彼が肋膜《ろくまく》を患《わずら》って寝たとき、欠勤《けっきん》の断りに僕を訪ねて来たことがあった。
悧巧《りこう》
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