る》めると共に一つの角を曲りました。警笛を四隣のビルディングに反響させ乍ら、自動車は憲兵隊本部の衛門の前、数間《すうけん》のところに止りました。車から降りる時、歩哨《ほしょう》の大きい声が襲《おそ》いかかって来ました。見ると半身《はんしん》を衛門の上に輝く煌々《こうこう》たる門灯に照し出された歩哨が、剣付銃をこっちへ向けて身構えをしていました。
「何者かアーッ」
と又歩哨が叱鳴《どな》りました。僕は、
「至急当直将校に会わせて下さい。内容はお目に懸《かか》らなければ言えませぬ。早く願います。僕の名刺《めいし》が此所《ここ》にあります」
と私は学生の肩書のついた名刺を出しましたことです。歩哨は僕の年若さと、学生服とに好意をよせたものか、二三の押問答の末、折から衛門から我々の声を聞きつけて飛び出して来た僚兵《りょうへい》に僕を当直将校室へ案内することを命じて呉れました。
当直将校丸本少佐は、何でもないという顔付をして僕の待たせられている応接室に入って来ました。僕は其の落付いた態度に、自分の持っている昂奮と不安とが、ややうち鎮《しず》められて行くのを感じました。しかしそれからのちの、重
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