大事件の説明は、すらすらと搬《はこ》びませんでした。それは、小一時間に渡った問答――というよりも訊問――が続いたのちのことです。何等かの決意をした丸本少佐は別室に去りました。営内がこの夜更に少しずつざわめき出して来ました。電話のベルが廊下のあなたに三度四度と鳴らされて行きました。「坩堝《るつぼ》に滾《たぎ》りだした」不図こんな言葉が何とはなしに脳裡《のうり》に浮《うか》びました。
 室の外の長廊下の遠くから、入り乱れて佩剣《はいけん》の音が此方へ近付いて来ました。
 丸本少佐の外に士官が二人、兵士が二人うち連れだって室内に姿を現わしました。少佐は其の人達を僕に紹介して呉れましたが、一人は参謀《さんぼう》の川沼大尉、他の一人の阿佐谷《あさがや》中尉と二人の兵士は通信係の人達でした。少佐はこれより直ちに僕の家を訪問して、謎の短波無線局のセントー・ハヤオ氏の通信を聴きたいということを語りました。僕はまだこれ位語ってみても信用されない自分を一応は腹立たしく思いました。又こんなにさし迫《せま》った君国の一大事に対して、余りに呑気《のんき》らしい少佐及びその一行を咎《とが》めたい気持に襲《おそ》わ
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