のない僕でも、次に何事が計画されているか、実行されるかという事を朧気《おぼろげ》ながら推察することが出来ました。これこそわが大日本帝国《だいにほんていこく》の一大事である。そしてこの一大事を一般国民に知らせることの出来るのは今のところ自分を除いては一人もないという事を考えると僕は重大なる任務のために、身体がガタガタ震え出すのを、どうしても我慢が出来ませんでした。
さて斯《こ》うして戸外《そと》に飛び出してはみたものの、第一番に何処に通報すべきであるか。一番手近な方法は、近所の交番へ訴《うった》え出ることでしたが、警官が簡単に納得して呉れるとも思われないし、それから先、警察署、警視庁、憲兵隊と階級的に軍事当局迄、通報されて行くであろう煩雑《はんざつ》さを考えると、交番へ訴え出ることを躊躇《ちゅうちょ》せずには居られませんでした。
僕は決心して近所のタクシーを叩き起しました。それから自動車を長舟町の憲兵隊本部へ飛ばせました。自動車は物凄い唸《うな》りをたてて巨大なる建物の並ぶ真夜中の官庁街を駆《か》け抜《ぬ》けて行きました。
軈て僕の乗った自動車は三十|哩《マイル》の最大速力を緩《ゆ
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