なくされ、其の翌日僕はやっと帰宅を許されました。セントー・ハヤオの事が気がかりで飛ぶように下宿の門をくぐりました。僕の室に入ってみますと、下宿の内儀《おかみ》が普段大事にしている座蒲団が五枚も片隅にうず高く積み重ねられているのを発見した時、僕は万事を直感してしまった。内儀に訊《ただ》すと果《はた》せるかな、僕が前日憲兵隊に引留《ひきと》められている間、数名の将校が僕の室を占領し、昨夜は一同眠りもやらず徹夜し、今朝がたになってやっと引上げて行ったとの事でした。僕は不愉快でたまりませぬ。しかしセントー・ハヤオのことが一層気にかかるので大急ぎで短波長の送受信機の前に座って受話器を耳に当てたり、送信機の電鍵を叩いたりしましたが、機械はたしかによく作働しているのにも拘《かかわ》らず、何時まで経ってもセントー・ハヤオの打ち出す無線電信の応答は聞こえませんでした。かくして夜《よ》に入りました。依然として何の信号も入って来ませぬ。そして空《むな》しく其の夜は明けはなれて行きました。
僕は其の日に例の将校連が来るかと不眠に充血した眼を怒らして待ちうけましたが、誰一人としてやって来ません。勿論歩哨の兵士すら居ませぬ。僕は到頭腹を立てて仕舞《しま》って、こっちから憲兵隊へ押しかけました。ところが驚いたことには、何と言っても僕を例の将校達に会わせないのです。そればかりか遂《つい》には僕をありもしない妄想に駆《か》られている人あつかいにして警官を呼ぼうなどと言うではありませぬか。僕は泪をポロポロ流し乍ら、その下宿へ引きかえさねばなりませんでした。
それからと言うものは、このことが頭にこびりついて、君も知るとおりの神経衰弱のようになって仕舞いました。しかし僕の一念は何としてもセントー・ハヤオの不思議な通信によって暴露《ばくろ》した事実をつき留めずには居られませんでした。僕はそれから約一年を辛抱《しんぼう》しました。そして夏になるのを待ち兼ねて、セントー・ハヤオが報じたN県東北部T山をK山脈へ向う中間の地点へ登攀《とうはん》しました。其処《そこ》近辺《きんぺん》を幾日も懸ってすっかり調べ上げました。背の高い雑草には蔽《おお》い隠《かく》されていましたが、彼《か》のセントーが物語ったような地形ではあり、又そぎ取ったような断崖《だんがい》もありました。
いやそればかりではありませぬ。ところどこ
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