だ》いたまま、地下に眠ってしまったのです。そして其の時にY――が私に残して行った不気味な遺品が、この壊れたバリコンでして、勿論《もちろん》彼の話の中に出て来る一つの証拠物《しょうこぶつ》とも言うべきものなのです。
Y――が其の時告白したところによると、謎を包んだ此の物語をはなして聞かせた人間は私が最初であり、また同時にそれが最後であるというのです。尤《もっと》もこの物語の後に於て判るように、このことがどんな事実であるかということを明瞭《めいりょう》に知っている筈《はず》の二つの関係があるのですが、これは孰《いず》れもそれ自身絶対に他へ洩らすことの許されない同じような二つの機密社会《きみつしゃかい》であるために、この驚くべき事実が他へ洩れる道が若《も》しありとすれば、それは亡友Y――によって(いやもっと詳しく言えばY――と私との二人とによって)行われるより外《ほか》に出来ないことなのでした。Y――が私以外の者に語ることを断念し而《しか》も他界してしまった今日《こんにち》、それは唯《ただ》私一人によって保たれている秘密なのです。未解決のまま残されている謎なのです。そこに私としての遺憾《いかん》があり、義務さえあるように感ずるのです。そうした気持が、私をして敢えて誓いの鎖《くさり》をひきちぎってまで貴方《あなた》に御話することを決心させたのでした。それはあり得べき事か、またはY――の錯覚《さっかく》であるか、それはこの物語がすんだあとで貴方は当然私に答えて下さらなければならないのです。――
ではその話を始めましょう。私がY――から聴いたときのように、彼の口調を真似《まね》ておはなしを致しましょう。ですから、次のものがたりで「僕」というのは、とりもなおさずY――自身のことだと思っていただかなければなりません。
* * *
僕は少年時代からラジオの研究に精進《しょうじん》していたラジオファンとして、あの茫莫《ぼうばく》たるエーテル波の漂う空間に、尽《つ》くることなき憧憬《どうけい》を持っているのでした。それは僕が始めて簡単な鉱石受信機を作って銚子《ちょうし》の無線電信を受けた其の夜から、不思議に心を躍らせるようになった言わば一種の「萌《も》え出でた恋」だったのです。僕は毎晩のように鉱石の上を針でさぐりながら、銚子局の出す報時信号《タイム・シグナル》のリ
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