。どうやらこれが船長らしい。だが船長にしろ、椅子にこしをかけたまま、帝国軍人に呼びかけるとは無礼至極であるとおもっていると、かの肥満漢は、
「私は脚が不自由なものでしてナ、お迎えにも出られませんで、御無礼《ごぶれい》をしておりますじゃ。この汽船の船長|天虎来《てんこらい》こと淡島虎造《あわしまとらぞう》でござんす」
 と、ていねいに挨拶をしてあたまを下げた。
 脚が不自由だという。見れば、なるほどこの虎船長の両脚は、太腿のところからぷつりと両断されて無い。
 このように脚が不自由だから、岸隊長を公室までまねいたことが一応|合点《がってん》がいった。しかしいくら脚が不自由でも、この船長だって出てこられないはずはないのだがと、岸隊長はどこまでも、こまかいところへ気を配りつつ訊問《じんもん》にかかった。
「本船のせきは、日本か中国か」
「もちろん日本でございます」
「日本船なら、なぜ船尾に日章旗を立てないのか」
「おそれ入りますが、これにはいろいろ仔細《しさい》がございまして……」
 と、かの虎船長は一揖《いちゆう》して、きっと形をあらため、かたりだしたところによると、
「――この平靖号は、
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