て貴様にめいずる。只今からのち貴様は本船内で一語も喋《しゃべ》ってはならん。しかと命令したぞ。下へいって、謹慎《きんしん》しておれ」
 船長は竹見に対して、たいへん不機嫌をつのらせるばかりだった。
 一体竹見は、なぜ下船したいなどと、とんでもないことをいいだしたものであろうか?


   意外な人物


 ノーマ号では、飲料水などを、平靖号が頒《わ》けてやってもいいという返事に、いろめきわたった。だが、ノーマ号からボートを下そうといったのに対し、平靖号は、こっちが品物をボートに積んでそっちへいくといって聞かないので、ちょっと当惑をしたらしく、しばらくは、その返事をよこさなかった。
 やがてのことに、やっと応諾《おうだく》の返事が、ノーマ号からあがったので、いよいよ事務長はボートを仕立てて、六人の部下とともに海上に下りた。
 事務長は、みずから舵《かじ》をひいた。
 飲料水と野菜と果実とは、舳にあつめられ、そのうえに大きなカンバスのぬの[#「ぬの」に傍点]をかぶせてあった。
 虎船長は、本船をはなれていくボートをじっとみていたが、側をかえりみて、
「おい、一等運転士。あの荷は、ばかに大き
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