い一等運転士の坂谷《たかたに》が、早くも前途を見ぬいて、船員の注意をうながした。
坂谷のいったとおりだった。わが平靖号は、どんどんノーマ号の後に接近していった。
水夫の竹見は、さっきから船橋の入口に立っていたが、この場の緊張した空気におされて、無言のままだった。
「おや、竹見。なにか用か」
と、かえって虎船長からとわれて、彼は、はっといきをのんで二三歩前に出た。
「ああ船長。私は、折角ですが、この船から下りたいのであります」
「なにィ……」
虎船長は、あっけにとられて、竹見の顔をあらためて見なおした。
信号旗
「なに、もう一度いってみろ」
船長は虎《とら》の名にふさわしく、眼を炯々《けいけい》とひからせて、水夫竹見をにらみつけた。
「はい。私は本船を下りたくあります」
「な、なにをいうか、本船にのりこむ前に、あれほど誓約したではないか。本船にのったうえからは、本船と身命をともにして、目的に邁進すると。ははあお前は、南シナ海の蒼《あお》い海の色をみて、きゅうに臆病風《おくびょうかぜ》に見まわれたんだな」
竹見は、目玉をくるくるうごかしつつ、
「臆病風なんて、そん
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