こうとする。
「まて、小僧、まだ話はすんじゃいないのだ」
船長ノルマンは、ふたたびどなりつけた。
「やれやれ、まだ話が、のこっているのですかい」
竹見は、わざとつまらなさそうな顔をして、もどってきた。
「貴様は、相当|図々《ずうずう》しいやつだ。一たい、誰のゆるしを得て、このノーマ号のうえを歩いているのか」
「わしの気に入ったからですよ」
「なにッ」
「おどろくことはありませんや。船長さん、あなただって、この船が気に入ってればこそ、こうしてノーマ号にのって、船長とかなんとかを引きうけているのでしょう」
竹見は、おそれ気《げ》もなく、いいはなした。
「ふふン」
さすがに、船長ノルマンは、おちついたものである。はらを立てないで、鼻さきでちょっとわらったばかりだ。
「とにかく、貴様みたいなわけのわからない小僧には、貴重な本船の食糧を食べさせておくわけにはいかん、日本人ならともかくもだが、中国人などに、用はない」
「……」
「用はないから、貴様をかたづけてやる。わが輩の腕力が、いかに物をいうかについては、貴様もさっき舷《ふなばた》をとびこえて二匹の濡《ぬ》れねこが出来あがったことを知らないわけじゃあるまいね。どうだ」
船長ノルマンは、さっき二人の水夫を、舷ごえに、海中へなげこんだことをいっているのであろう。
「よわい者を、おどかしっこ無しだ」
「なにを、ぐずぐずいうか」
船長ノルマンは猿臂《えんぴ》をのばして、水夫竹見の襟髪《えりがみ》をぐっとつかんだ。怪力だ。竹見はそのままひっさげられた。足をばたばたしたが、足の先に、どうしても甲板《かんぱん》がさわらないのであった。それでは、どうすることもできない。
「さあ、どうだ。このまま舷へもっていって、ぽいとすててやろうか」
「なぜすてるのか」
「わかっているじゃないか。この船に、中国人なんか、用はないんだ。それとも、まっすぐに日本人だと、白状するか」
ノルマンは、どこまでも、竹見に白状させるつもりだ。
「船長さん、さっきから、何度もいっているじゃありませんか。わしは日本人が大きらいなんですよ。それにも拘《かかわ》らず、あなたという人は、なんでもかでも、わしを日本人にしてしまわないと承知ができないらしい。それは無理ですよ。いや無理などころか、無茶ですよ」
竹見は、どこまでも、中国人でがんばる決心だった。
「まだ、白
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