しっかりしろ。ぐずぐずしてりゃ、二人ともつかまっちまう」
 船長ノルマンは、有名な強力《ごうりき》だったから、巨人ハルクのうでをかたにかけ、彼の巨体を、ひきずるようにして、どんどん埠頭《ふとう》の方へいそいだ。
 やがて二人が近よったのはぷーんと異様な臭気のただよっている倉庫だった。その倉庫の入口は明いて、しきりに物をはこびこんでいる。そこはつまり、平靖号の積荷をはこびこんでいる例の倉庫だったのである。
「あっ、船長」
 ノーマ号の火夫《かふ》の一人が、目ざとく、二人をみつけた。
「おう、だれにもいうな。こいつ、意気地《いくじ》がないから、やられちまったんだ。おくへ入るから、だれにもだまっているんだぞ、いいか」
「へい、へい」
 火夫は、ぺこぺこあたまをさげた。彼も、船長ノルマンのおそろしいことは、知りすぎるほど知っていた。ノルマンは、肩にしていたハルクを、倉庫の一等おくまったすみへ、たわらでもなげつけるように、ころがした。
「ううッ……」
 といったきり、ハルクは、死人のようにぶったおれ、そのままうごかない。
 船長は、足をあげて、ハルクのかたをけった。ハルクは、上むきになった。ひどい形相《ぎょうそう》であった。
「ふん、此奴《こいつ》は、もうだめらしい」


   鬼船長


 そこへ飛びこんできたのは、竹見水夫だった。
 彼は、船長ノルマンの姿をみるや、
「ハルクが、やられちまったそうですね。何処にいますか、ハルクは? 一たい、どの野郎と喧嘩をしたんですか」
 と、あたりをきょろきょろとうかがう。ノルマンは、無言で、竹見の間に、通《とお》せんぼうをして立つ。
 そのとき、ハルクが、一声うなった。
「あっ、ハルク。お前、どこにいるんだい」
 竹見は、ようやくハルクが、貨物のかげにたおれているのに気がついたようであった。彼が、ノルマンの間をすりぬけて、後へとびこもうとすると、奇怪にも、ノルマンは竹見の肩を力まかせに、どんとつきとばした。
「あっ、……」
 竹見は、不意《ふい》を食《くら》って、その場によろよろ、しりもちをついた。
「船長、な、なにをするッ」
 竹見は、あわててとび起きると、すさまじい形相で、みがまえた。
「さわぐな。お前には関係のないことだ。むこうへいけ――」
「いやだ、仲間のくるしんでいるのを知って、放っておけるものですか」
「なに、反抗するか。
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