とき何に駭《おどろ》いたのか、八十助は舗道の上に棒立ちとなった。彼はつい今まで忘れていた重大なことを思い出したのだった。
「ハテ……、鼠谷仙四郎なら、あいつは確か死んでしまった筈だったが……」


   暗鬼は躍る


「鼠谷仙四郎なら、生きている筈がない!」
 八十助が顔の色を変えたのも無理はなかった。なぜなれば、いまから二三ヶ月ほど前、彼はハガキに印刷した鼠谷仙四郎の死亡通知を受取ったことを思い出したからだ。なぜそのような重大なことを度忘れしていたのだろう?
 その文面には、たしかに次のような文句があったと思った。
[#ここから2字下げ]
「……鼠谷仙四郎儀、療養|叶《かな》わず、遂に永眠|仕候間《つかまつりそうろうあいだ》、此段謹告候也《このだんきんこくそうろうなり》。
追而《おって》来る××日×時、花山祭場に於て仏式を以て告別式を相営み、のち同火葬場に於て荼毘《だび》に附し申可く候《そうろう》……」
[#ここで字下げ終わり]
 この文面から推《お》せば、彼はたしかに病気で死亡し、その屍体はたしかに火葬せられたのだった。しかも皮肉なことに、彼が生前世話を焼いていた花山火葬場の罐の
前へ 次へ
全41ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング