い、棺桶の中に入っていたではないか」
 将軍の指す方を見ると、八十助のいままで収容されていた棺桶が、いかにも狼藉《ろうぜき》に室の隅に抛《ほう》り出されていた。
「ああ、それでは――それでは、やっぱりここは冥途《めいど》だったんですか」
「そうでもないのじゃ」
「え?」
 八十助の怪訝《けげん》な顔を暫く見詰めていた将軍は静かに口を開いた。
「ここは、つまり、火葬国じゃ」


   奇怪な話


「火葬国?」
 八十助は怪げん[#「げん」に傍点]な顔で、一宮大将と名乗る男の云った言葉を叫び返した。
「そうじゃ。火葬国といったが早判りがするじゃろう」と一宮大将は傍《かたわ》らを向いて「どうじゃな鼠谷君。一つ君から、この国柄を説明してやって呉れぬか。なにしろ君が一番よく知っているでのう」
「はア、じゃ一つ、甲野君を驚かせることにしますかナ」といって八十助の方をジロリと眺めた。「だがその前に、是非《ぜひ》云って置かなければならぬことがある」
(おいでなすったな――)と八十助は思った。
「それは、君を此処へ連れて来たからには、もう絶対に日本へ帰って生活することを止めてもらいたいのだ。第一君はも
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