消えたかナ!)
と思ったが、しかし罐の火はいよいよ明るく燃えさかっているらしいことが、棺の蓋《ふた》の隙間から望見された。罐は盛んに燃えている。それだのに、棺の中にいるわが身は急に楽になったのだ。
ポツーン。
そのとき何か冷いものが、胸のあたりに落ちてきた。
「おや。――」
と彼は叫んだ。その声のすむかすまないうちに、つづいてポツリポツリと冷いものが上から降って来た。
「ああ、水だ。――水が洩れてくる」
彼の元気は瞬間のうちに回復した。気が落着いて来た。助かるらしい。八十助は両眼をグルグル廻して何物か見当るものはないかと探した。有った、有った。棺の隙間から見える真赤な火の幕、その火の幕すこし手前の、おそらく棺桶のすぐ外と思われるところに、空間を斜に硝子管が走っているのを認めた。そしてその硝子管の中には、小さい水泡を交ぜた透明な液体が、たいへんな勢いで流れているのだった。それは水に違いなかった。さっきポツンと胸の上に落ちて来た水と同じところから、供給されている水に違いなかった。
(ああ、なんたる不思議! 火葬炉の中に、冷水装置がある!)
人体を焼こうとするところに、逆に冷やす
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