ウシュウという音が聞えて来た。
「何だろう、あのシュウシュウいう音は?」
 そのうちに、ドンドンというような音が交って来た。その間にカーンと、金属の触れ合うかん[#「かん」に傍点]高い音が交って聞えた。
「おや。――」
 それは、どこかで聞いたことのある音響だった。ドンドンという低いながらも、底力のある物音が地鳴りのように、八十助の腹の底を打った。彼は呼吸《いき》をこらし、身体をすくめてその異様な物音に聞き入った。
 パチパチというような音が交り始めたと思う間もなく、今度は八十助の身体が、不思議に熱くなって来た。考えてみると、先刻から気がつかなければならなかったことだが、彼が暗黒の箱の中で気がついてからこっち、室内は春のように暖かだった。厳冬の真唯中だというに、まるで春のような暖かさは不思議だった。ところがいま急に熱くなって来たのでこの異様な温度の上昇に気がついたというわけだった。
「何が始まったのだろう?」
 と思ううちに、パッと眼の先が明るくなった。といっても暁《あけがた》に薄っすりと陽の光りがさしこんでくる位の明るさだった。奇態なことに、別に臭気というものを感じなかったけれど、―
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