の両側をジロジロと眺めまわした。
「やっぱり気になると見えるネ。ふふふふッ」
 と鼠谷と名乗る男は、煙草の脂《やに》で真黒に染まった歯を剥《む》きだして笑った。
 八十助は赤くなった。しかし彼の眼には、死んだ女房の幽霊らしいものは見えなかった。


   怪人怪語


「イッヒッヒッ。……いくら探しても、まさか此処には居やしないよ」
 鼠谷はますます機嫌がよかった。それだけ八十助は腹が立ってたまらなかった。
「君はこの僕を嬲《なぶ》るつもりだナ。卑劣なことはよし給え」
「ナニ俺が君のことを嬲るって?」鼠谷はわざと大袈裟《おおげさ》に駭《おどろ》いてみせた。「それア飛んでもない言いがかりだよ。俺の言うことは大真面目なんだ。それを信じない君こそ実に失敬じゃないか……とは云うものの、君が一寸《ちょっと》信じないのも無理がないと思うよ。余りに俺の云うことが突飛《とっぴ》だものネ」
 鼠谷は怒るかと見せ、その後で直《す》ぐ顔色を和《やわ》らげて八十助の機嫌をとるのだった。八十助はようやく気持を直した、それが策略であるかも知れないとは思いながら……。
「とにかく君は大嘘吐《おおうそつ》きだネ」と八
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