丸木は、千二に向かって、ここに待っていてくれと言うのだ。
「ああ、待っていますよ」
千二は、ひょっとすると、この間に、丸木の手から逃出すことが出来はしないかと思ったので、そう返事をした。
「すぐ、おれはここへ帰って来る」
そう言置いて、丸木は千二をはなすと、すたすた歩き出した。
(どこへいくのだろう?)
千二は、その時ふといやな気持になった。丸木は、さっき見とれていた、あの洋装女から、金を借りるつもりではないかと思ったのである。だしぬけにそんなことを頼まれては、さぞかし女の人は驚くだろう。
千二は、たいへん心配になった。
「おうい、丸木さん」
千二は、じっとしていられなくなって、丸木の後を追いかけた。
だが、丸木の姿は、いつの間にか人込のなかに吸いこまれて、どこへいったのか、わからなくなった。それでも千二は、あっちへいったり、こっちへかえったり、いやな胸さわぎをおさえつつ、しきりに丸木の姿をさがしもとめたのだった。しかし、それは、遂にむだに終った。
千二は、またいつの間にか、元の所へもどって来た。
「おい、千二」
だしぬけに呼ばれて、千二はびっくりした。それは丸木だ
前へ
次へ
全636ページ中57ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング