士は、行先を言わないで出ていった。


   62[#「62」は縦中横] 怪しい影


 博士が、出ていって、部屋には、新田先生と千二との二人きりになった。
「先生、博士は、どこへいかれたんですか」
「さあ、どこだかなあ。博士は、ことさら返答をさけたようだ」
「髪をつんだり、座席を立ってどこかへいったり、なんだか博士の様子が、へんですねえ」
「そうだね。へんだと言えば、へんだが、まさか、まちがいはあるまいと思うが……」
 先生は、そう言うよりほかなかった。
 二人は、しばらくだまっていた。
「ねえ、先生」
「なんだ、千二君」
「博士は、はじめから火星へいくつもりでは、なかったのでしょうか」
「はじめから、火星へいくつもり? どうしてだい」
「つまりですね、地球は、あと二、三日したら、モロー彗星に衝突されて、こわれてしまうでしょう。だから、博士は、粉々になる地球の上にいて死んでしまうのはいやだから、その前にこの大空艇にのって地球をはなれ、火星へいくつもりじゃなかったのでしょうか」
「なるほどねえ、それは、ちょっと理窟になっているねえ。ははあ、博士は、そういうつもりで、地球をはなれたのかし
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