かけてあった油くさいきれをとって、いい気な博士の肩にかけてやった。
「ふん、なかなかいいぞ。うまく鋏《はさみ》をつかって、こののびた髪を、わしが言うように、切ってくれ」
千二は、博士があまりのんきなので、おどろいた。そうして、鋏をしきりにつかって、長くのび切った髪を、つんでいった。
博士は、いろいろと口やかましく、千二の鋏のつかいかたに、文句を言った。しかし、そのうちに博士の髪かたちは、ととのっていった。
博士は、やがて一変して、若々しくなった。
「博士、ずいぶん、若くなられましたねえ。十歳ぐらいも、若くなりましたよ」
と、となりの座席にいる新田先生が言った。
「そうじゃろう。なあに、もう、おかしくなったまねをしている必要も、なくなったからのう」
千二は、すっかり仕事をなしおえた。成層圏で髪を刈ったのは、わが蟻田博士ぐらいのものであろう。
このとこやさわぎが、先生や千二の心を、大へんやわらげた。博士は、ほんとうのところは、髪を刈りたかったのではなく、二人の気持を、らくにするために、むりに髪を刈れと言ったのかもしれない。……
大空艇は、いま暗黒の空間を、ひたむきに飛んでいる
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