せんか」
 と、おそるおそる言った。
「ボロン? ボロン? 硼素《ほうそ》のことですか」
「さあ……」
「白い粉末になっているやつでしょう」
「さあ、どうですかねえ」
 千二は、何も知らないので、弱ってうしろをふり向いた。すると、店先で、他人をよそおっていた丸木が、
(それだ、それだ)
 という意味を千二につたえるため、うなずいてみせた。千二は、元気づいて、
「ああそれですよ。白い粉末のボロンです」
「精製のものと、普通のものとありますが、どっちにしましょうか」
「さあ、精製のと普通のと、どちらがいいのでしょうかねえ」
 千二は、またうしろをふり返った。すると丸木は、手を上にあげて、信号をした。精製の方のがいいという意味らしい。
「いい方を下さい」
「はい、承知しました。三本でよろしいのですね。では一本、ただ今二円三十銭ですから、三本で、六円九十銭いただきます」
「六円九十銭ですとさ」
 千二は、丸木の方をふり返って、そう言った。
 すると、おもいがけなく、丸木が急に、そわそわしだした。
 たいへんあわてているのであった。彼はしきりに胸のところを叩いている。何かよほど困ったことがあるら
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