葉県にいたはずだけれど、どうしてこんなに早く東京へ着いたの」
「そんなこと、どうでもいいじゃないか」
すぐ横で、丸木のこえがした。
千二が、横をふりむくと、そこには、例の黒ずくめの服装をした丸木が、眼鏡をきらきらさせて、立っていた。
「さあ、薬屋へいくんだ。いいかね。逃げると承知しないぞ」
そう言って丸木は、千二の手を握った。
それは氷のように冷たい手だった。いや、丸木は革の手袋をはめているらしい。
二人の立っているところは、銀座裏の掘り割りのそばで、人通りはなかった。だからこの二人は、怪しまれることもなしに、こんな会話をすることが出来た。
「薬屋へいって、なにを買うの」
「ボロンという薬だ。ボロンの大きな壜を、二、三本買いたいのだ」
「ボロンを、どうするの。何に使うの」
「おだまり。お前は、早く薬屋をさがせばいいのだ」
6 悪人《あくにん》丸木《まるき》
丸木におどかされながら、千二は、賑やかな銀座の通に、ようやく一軒の薬屋さんを見つけて、その店先をくぐった。
千二は薬剤師らしい白い服を着た店員に、
「あのう、ボロンの大壜《おおびん》を二、三本売ってくれま
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