したりすると、お前の命があぶないぞ。命が惜しければ、よく言うことを聞くんだ。わかったか」
千二は、丸木からおどかされて、ほんとうのところは、腹が立った。
(なにを、この野郎!)
と思った。千二少年も日本人である。むやみにおどかされて、それでおめおめ引込んでいるような、弱虫ではない。だが、この場合、千二は、丸木ととっくみあいをする時ではないと思ったので、
「僕、逃げたりなんかしないよ」
と答えた。
「逃げないと言ったな。よし、その言葉を忘れるな。ふふふふ。やっぱり人間という奴は、命がおしいとみえる」
と、丸木は、ふふふふと、鼻の先で笑いながら、千二を袋の中から、ひっぱり出した。
「さあ、ちゃんと立ってみろ。うしろを向いて、しっかり立てと言うんだ」
千二の足は、ふらふらだった。袋の中で、へんな工合に足をまげていたので、足が変になっていた。
丸木は、千二の頭の後で、ごとごとやっていたが、そのうちに、千二の目の中に、ぱっと夜の光が飛びこんで来た。
うつくしい広告灯の灯だった。銀座が、千二のすぐ目の前に立っていた。
「あっ、ほんとうにもう東京へ来たんだ。丸木さん、僕たちは、さっき千
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