ジオを聞いていた人々を、驚かしたものである。
 ここに一人、蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、そうして大きなおどろきをもって、耳を傾けていた少年があった。この少年は、友永千二《ともながせんじ》といって、今年十三歳になる。彼は、千葉県のある大きな湖のそばに住んでいて、父親|千蔵《せんぞう》の手伝をしている。彼の父親の手伝というのは、この湖に舟を浮かべて、魚を取ることだった。しかしどっちかというと、彼は魚をとることよりも、機械をいじる方がすきだった。
「ねえ、お父さん。今ラジオで、蟻田博士がたいへんなことを放送したよ。『火星兵団』というものがあるんだって」
 千二は、自分でこしらえた受信機の、前に坐っていたが、そう言って、夜業に網の手入をしている父親に呼びかけた。
「なんじゃ、カセイヘイダン? カセイヘイダンというと、それは何にきく薬かのう」
「薬? いやだねえ、お父さんは。カセイヘイダンって、薬の名前じゃないよ」
「なんじゃ、薬ではないのか。じゃあ、うんうんわかった。お前が一度は食べたいと言っていた、西洋菓子のことじゃな」
「ちがうよ、お父さん。火星と言うと、あの地球の仲間の星の火星さ。
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