兵団と言うと、日中戦争の時によく言ったじゃないか、柳川兵団《やながわへいだん》だとか、徳川兵団だとか言うあの兵団、つまり兵隊さんの集っている大きな部隊のことだよ」
「ああ、そうかそうか」
「お父さん、『火星兵団』の意味がわかった?」
「文字だけは、やっとわかったけれど、それはどういうものを指していうのか、意味はさっぱりわからぬ」
 千蔵は大きく首を振るのだった。
「おい千二、その『火星兵団』という薬の名前みたいなものは、一体どんなものじゃ」
 父親は網のほころびを繕う手を少しも休めないで、一人息子の千二の話相手になる。
「さあ『火星兵団』ってどんなものだか、僕にもわからないんだ」
「なんじゃ、おとうさんのことを叱りつけときながら、お前が知らないのかい。ふん、あきれかえった奴じゃ。はははは」
「だって、だって」
 と、千二は口ごもりながら、
「『火星兵団』のことは、これから蟻田博士が研究して、どんなものだかきめるんだよ。だから、今は誰にもわかっていないんだ」
「おやおや、それじゃ一向に、どうもならんじゃないか」
「だけれど、蟻田博士は放送で、こんなことを言ったよ。『火星兵団』という言葉が
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