その言葉が終るか終らないうちに、しゅうしゅうとはげしい音が始った。蒸気がふき出すような音であった。
それと同時に、袋の中に、はいっている千二の体は、ゴム毬が転がるように、ぐるぐるまわりだした。
「わっ、目がまわる!」
目がまわって、胸が悪くなった。千二はよだれをだらだらと出した。
「丸木さん、僕は苦しいよ」
千二はとうとう悲鳴をあげた。
だが、その声は、しゅうしゅうという音にかき消されて、丸木の耳には達しなかったようである。丸木は、うんともすんとも返事をしなかった。
どうなることかと、千二は気が気ではなかった。
しかし、それはものの四、五分しかつづかなかった。しゅうしゅうという音がとまった。
「さあ、千二。外へ出るんだ」
千二は、袋の中から出してもらえるのだとばかり考えていた。しかしそれはまちがいだった。千二は袋ごと、どさっと下におろされた。その時彼はひやりとした大地を感じた。そうして、ぴちゃりぴちゃりと、さざなみが汀《みぎわ》を叩くらしい音を聞いたと思った。
「ああ湖の近くだ」
千二は、おぼえのある磯くさいにおいをさえ、かぎわけた。
「ねえ、丸木のおじさん。僕をちょっ
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