と外へ出して下さいよ」
「外へ出して、どうするんだ」
丸木が、怒ったような声でたずねた。
「ちょっとうちへ寄っていきたいんです」
「だめだめ。そんなことはだめだ!」
丸木は、あたまごなしに叱りつけて、
「これから東京へ出るんだ。しっかりつかまっていろ」
外へ出してやるぞと丸木が言ったのは、千二を袋から外へ出すことではなかった。後になって考えて見ると、あの時千二は、湖の底から、何かある乗物に乗って、水面に浮かび出たものと思われる。それを操縦したのは、もちろん丸木にちがいなかったが、その乗物は、一体どんな乗物であったか、それをここに書くと、誰でもびっくりするであろう。
「さあ、出発だ。いいかね」
丸木が、そう言うと、千二の体は、ふたたび袋の中でゆられ出した。しかし今度は、もうしゅうしゅうと音はしない。丸木が、千二のはいった袋を肩にかけて、歩き出したと思われる。
丸木は、どんどん歩きつづけた。
「丸木さん、汽車に乗っていかないの」
千二は、袋の中から声をかけた。
「汽車?」
丸木は、ちょっと言葉を切って、
「汽車なんかをつかうより、歩いた方が早いや」
「うそばっかり」
千二は
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